ep93 合同魔術演習
森の入口に向かって、特異クラスと特別クラスの生徒たちはそれぞれに何となくかたまる。
ライマスは特別クラスの集団の端っこで、居心地悪そうにうつむいている。
結局、授業前にあいつとは話せなかった。
いや、俺たちから話しかけられても困るのか。
でも授業内容によっては協力し合うことだってできるかもしれない。
「それでは本日の演習内容を説明する。よく聞くように」
生徒たちの前、森を背にしてガブリエル先生とハウ先生が立った。
といってもハウ先生は一歩退がり、ガブリエル先生任せの姿勢。
「さて、本日は私が担任をする特別クラスとハウ先生が担任をする特異クラスとの合同魔術演習となる。その内容だが」
ガブリエル先生は特異クラスを含めて生徒を見回してから言う。
「仮想〔ゼノ〕捕獲実習だ」
生徒たちの間にどよめきが起こる。
正確には俺たちのまわりだけだが。
特別クラスの連中は澄ました顔をしている。
「それではルールを説明する」
ガブリエル先生は掌をかざす。
次の瞬間、その手の中にボンッと棘状の鞭が現れる。
そのまま先生は鞭のグリップを握って振りかざすと、スパァァンと地面に叩きつけた。
「あ、あれは!」
驚いた。
なんとガブリエル先生の鞭によって叩きつけられた地面から魔法陣が浮かび上がり、濃紫色の光を放ちながらズズズズッと魔物が出現したからだ。
「特異クラスの生徒たちは初めて見るだろうから説明しておく。これは私の召喚魔術。この鞭は私の魔法媒介装置だ」
黒ずんだ狼のような魔物が、ガブリエル先生の足元をうろつく。
「私は召喚した魔物を使い魔として自由に操ることができる。さて、もう気づいただろう。コイツらが、本日の実習で〔仮想ゼノ〕となるのだ」
なるほど、そういうことか。
つまり、ガブリエル先生の使い魔の魔物を仮想ゼノとして捕獲する、というのが今日の魔術演習ってことだ。
「今から私の召喚魔術で森に無数の使い魔を放つ。これから君達は森へ入り、制限時間内により多くの〔仮想ゼノ〕を捕獲すること。これが本日の合同魔術演習の内容だ」
ガブリエル先生は人差し指を立てた。
「なお、一体も捕獲せず森から出てきた者は失格とする。
制限時間内に森から出てくることができなかった者も失格とする。
したがって、もっとも高評価となるのは、制限時間内により多くの〔仮想ゼノ〕を捕獲して森から脱出した者となる」
不意にガブリエル先生の視線が俺のほうへ向いた。
「なお、〔仮想ゼノ〕の捕獲について、その手段は問わないものとする。ただし、目的にそぐわない生徒同士の戦闘は禁ずる」
なんだ?
なにか含みがあるように思えるが、なんだろう。
「最後に私からもひとつ」
ここでようやくハウ先生が前へ出てきた。
「今回の内容。使用する魔術のタイプによっては苦手な生徒もいるでしょう。そこでこちらを皆さんにお配りします」
ハウ先生から生徒たち全員の手に小さい石が渡る。
目を凝らすと、表面には幾何学的な模様が刻まれている。
なんだこれ?
「そちらは捕縛魔術を施した〔簡易アルマ〕の石です。それを〔仮想ゼノ〕にぶつければ、誰でも捕獲することができます。一回しか捕獲できませんが、その石を使用して〔仮想ゼノ〕を捕獲した者には、残り時間の多さを評価の加点とします。これによって少しでも公平性を担保しますので、皆さんは安心して授業に臨んでください」
ということは、何ならこの石を使って〔仮想ゼノ〕を捕獲してさっさと森から出てきて終わらせることも可能ってことか。
たしかにこれなら、それこそ魔法自体が苦手な生徒でも充分結果を出せると思う。
思いのほか良心的だ。
「ガブリエル先生。ひとつ質問よろしいですか?」
ジークレフ学級委員長が挙手した。
ガブリエル先生は彼女の質問を許可する。
「先生の魔術によって召喚された魔物、すなわち〔仮想ゼノ〕は、レベルとしてはDランクの小魔という認識でよろしいでしょうか」
「そのとおりだ。これはただの雑多な魔犬に過ぎない。君たちでも対応できるように調整もしている」
小魔レベルというのは、ゼノの強さのレベルのこと。
ゼノには次のようなランクがある。
【ゼノ・ランク】
Sランク:魔神
Aランク:魔人
Bランク:魔獣
Cランク:魔物
Dランク:その他。小魔とも呼ばれる。
だから、今日の授業での〔仮想ゼノ〕は、最低ランクの最低レベルの強さってことだ。
まがりなりにも、これまでに俺はBランクの魔鳥獣プテラスキングとCランクの大怪鳥プテラスと相見えたことがある。(両方とも倒したのはジェットレディだけど)
そいつらよりも下ってことだから、あの時ほどの危険はないと考えていいよな。
ましてや、あくまで〔仮想ゼノ〕。
ルールは良心的。
正直、不安だったし緊張もしていたけど、少し安心したかも。
それに、俺にはちょっとした秘策もある。
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