ep92 特別クラス③
「なあ、あんたら」
俺はランラに言う。
「俺には特別クラスがどうとか特異クラスがどうとか、そんなことはどうでもいい。あんたらが俺たちのことをどう思おうがそれもどうでもいい。ただ、お互い同じ人間だ。そっちが傷つけてくるなら、こっちも黙っているわけにはいかない。それはわかるよな?」
ランラの顔に苛立ちが募る。
やはり退いてはくれない。
かといって、こいつらの態度は看過できない。
困ったな、と思っていた時。
予想外?いや、これが本来の姿なんだろう。
ひとりの女子が口をひらく。
「ぎゃふんと言わせてやる......」
さっきまでとは一転、強気で生意気な口調でエマが吠えた。
「お前らなんか、ぎゃふんと言わせてやるしぃ!」
「ああ?いきなりどうしたテメー?ネジでもぶっ飛んだか?」
さすがのランラもやや面喰らったのか、怒るより呆れている。
エマはランラをビシッと指さした。
「調子に乗ってられんのは今のうちだかんな!」
「はあ?テメーなんかに何ができんだ?」
「あーしじゃない!」
ここでエマの人差し指の向かう先が俺に変わる。
「特待生のヤソガミがお前らをギッタギタのメッタメタにしてやるし!」
他の誰よりも俺自身が「え?俺が?」となる。
そもそもエマさん。
元気になったのはいいけど切り替え早すぎないか?
しかしそんなことなどお構いなしにエマは一段とまくしたてる。
「いいか!ヤソガミは最初の魔術演習の授業で教室に洪水を起こしてクラス全員を溺死させかけたんだ!それだけじゃない!魔法犯罪組織の犯罪者のヤツらを素手でブチのめしたんだ!まだあるぞ!でっかいモニュメントあるだろ?あれを蹴り一発で粉々に粉砕したんだ!どうだ!スゲーだろ!」
なんだろう。
事実は事実なんだけど、微妙にニュアンスが違う気がする。
間違ってはいないんだけど。
いや、それよりも......。
「な、なあ、エマ」
ドヤ顔で見栄を切るエマに確認する。
「洪水のこと以外の二つは、ヤソミなんだけど......」
一秒後。
エマは「あっ」となって口を押さえた。
ランラとリンリが疑念の表情を俺に向ける。
「モニュメントぶっ壊した女って、狂乱の破壊姫だよな」
「はい、姉さん。あれはヤソミとかいう女子生徒と聞いております」
レイ姉妹の視線がじ〜っと俺に突き刺さる。
「まさか、狂乱の破壊姫の正体って......お前なのか??」
「変身魔法ですか?まあでも、あのジェットレディがスカウトした特待生です。それぐらいのことはやりそうですが」
どうしよう。
よりによって特別クラスの、しかも生徒会の連中にバレてしまうぞ。
ガブリエル先生は、むしろ校内秩序のためと公にはしないでおいてくれたけど、コイツらにバレたら終わる。
とその時。
「ヤソガミくーん。もう隠さないでいーんじゃない?」
「セリク?」
いきなりセリクが相変わらずニコニコとしながらこちらへ歩み寄ってきた。
「やあ、ランラちゃんとリンリちゃん」
「なんだよ、シャレク様のご友人か」
「セリク様。今の言葉の意味は」
セリクは俺の肩にポンと手を置いた。
「言葉の通りだよ。狂乱の破壊姫ヤソミの正体は、このヤソガミくんだよ」
「お、おい、セリク」
「むしろナメめられなくなっていいんじゃない?」
「そういう考え方もできるけど...いやそうじゃなくて!セリクは気づいていたのか?」
俺の質問に対し、セリクはむしろ理解できないといった仕草をする。
「いやいや、今までのことを考えればわかるでしょ?といっても他の人たちは気づいていなかったけどね。あっ、学級委員長は気づいていたかも」
セリクはジークレク学級委員長に視線を送った。
それに気づいた学級委員長は、真顔のままこちらへ近づいてくる。
「ちょっと貴方たち。いい加減にしなさい。そろそろ授業が始まるわ」
学級委員長がやってくるなり、ランラとリンリの鋭い眼差しが彼女へ向けられる。
「ジークレク家の水使いのお嬢様。相変わらず自信満々のツラ。ムカつくな」
さっそくランラが毒づいた。
今度ばかりは、なぜかリンリも姉を諌めない。
「本当ですね。優秀なのはわかりますけど、所詮は特異クラスですのに」
当のジークレク学級委員長はというと、凛として意にも介さず涼しい顔をしている。
彼女たち。
一体どういう関係性なんだろうか。
ランラとリンリは明らかにジークレク学級委員長へ敵意を滲ませている。
「そろそろ授業を始めるぞ!」
ここでガブリエル先生の声が届いた。
ランラとリンリは、チッと舌打ちをするようにきびすを返した。
それから肩越しに学級委員長を一瞥し、俺にも一瞥をくれてから、シャレクが先頭に立つ特別クラスのもとに戻っていった。
「ランラ。リンリ。特待生くんと特異クラスはどうだったかな?」
「シャレク様。正直、ランラにはよくわからないっす。でも、狂乱の破壊姫の正体がアイツってのは少し驚いたかな」
「それはリンリも同様です」
「ほお。それは中々興味深いねぇ」
「あとは、相変わらずジークレフがムカつくってことかな。フィッツジェラルドバンクの娘は雑魚だからどうでもいい」
「シャレク様のほうこそどうなんですか?」
「僕は......どうだろうね」
シャレクとレイ姉妹はこちらを見ながら何かを話している。
よく聞こえないが、良い内容は想像できない。
合同魔術演習。
ややこしいことにならなければいいんだが......。
「ヤソガミ!ごめん!」
エマが勢いよく謝ってきた。
俺に責める気などまったくない。
悪気がないのはわかっている。
「もういいよ。ある意味いつも通りのエマに戻って安心したよ」
「だろ〜??」
エマは悪戯っぽく笑った。
おいお前。本当に悪気はないのか。
まあ、いつもの調子に戻ったのならいいか。
フェエルとミアも仕方ないよといった表情で苦笑している。
「もう私語はやめなさい」
ジークレフ学級委員長がビシッと言った。
「魔術演習が始まるわ」
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