ep90 特別クラス②
「とりあえず今日の魔術演習がんばろ...」
言い切る前に言葉が止まる。
ふと俺の視界に、知らない二人の背の低い女子が、スッと入ってきたからだ。
「コイツが特待生のヤソガミってヤツか」
「セリク・クレイトンならまだしも、なんでシャレク様がこのような者のことを気にしているんだか......」
いかにも高慢で高圧的な口調の女子と、物静かな雰囲気の女子。
瓜二つの顔。
双子なのか?
ひとりはツインテールの女子。
釣り上がった好戦的な目には、燃えるような闘志を感じる。
もうひとりは編み込みの入ったボブの女子。
落ち着いたクールな目には、鋭利な冷たさを感じる。
「このコたちは...」
エマが彼女たちのことを知っていた。
「ランラ・レイとリンリ・レイ。シャレク・タウゼンに次ぐ実力を備えていると言われているレイ姉妹だよ。しかも、このコたちも生徒会だよ」
「双子なのか?」
エマに訊いたつもりだったが、本人たちが一歩前に出てくる。
「双子だ。悪いか」
「こちらツインテールの方は姉のランラ。わたくしは妹のリンリです」
物静かな雰囲気の妹リンリのほうが自己紹介をしてきた。
「俺は八十神天従です」
挨拶を返すが、ランラもリンリも表情ひとつ変えない。
刺すような眼差しを向けてくるランラに至っては敵意すら感じる。
「パッとしねーな。ホントにコイツがジェットレディにスカウトされた特待生なのか?」
案の定、ランラが見下すように吐き捨ててきた。
「マヌケそーなツラしてっけど」
「ちょっと姉さん。そういうことは本人に聞こえないように言わないと」
リンリが悪態をつく姉を諌めた。
姉はアレだが妹はちゃんとしているのか......て違うだろ。
「本人に聞こえないように」を、本人に聞こえるように言ってどうするんだ。
「あ、あの、今日はよろしくお願いします」
不信感を募らせる俺を助けるようにフェエルが割って入ってきた。
「特別クラスと一緒に授業を受けられて光栄です」
「わ、わたしも、特別クラスのみんなと一緒に魔術演習なんて、嬉しいです」
フェエルに続いてミアも入ってきた。
ふたりとも大人だ。
授業内容はまだ知らないけど、ここで敵対したってしょうがない。
ここは俺も、無理矢理にでも感じ良く済ませておいたほうが無難だ、と思ったのも束の間。
「はあ?お前ら誰だよ?名もなき劣等生にそんなこと言われたってなんとも思わないわ」
ランラは蔑むような目つきでフェエルとミアを冷たく見下した。
それでも優しいふたりは大人な対応をしようとする。
俺はカチンときた。
自分に言われた以上に。
「おい」と、俺が声を上げる間際。
「もういいでしょ?こっちはこっちで勝手にやるから」
普段とは違う口調のエマが、俺たちを退がらせるように前に出てきた。
「さあ、そろそろ授業も始まるし」
「ん?お前......フィッツジェラルドバンクの娘だろ?」
ランラがエマを見て言った。
「今日ここにいるってことは、特異落ちしたってのは本当だったのか」
エマはなにも言い返さず、ただ俺たちを退がらせようとする。
「いさぎよく学校辞めりゃいいのに。しがみつきやがって」
ランラはエマを痛ぶるように続ける。
「お前なんかさっさと辞めちまったほうが学園側も助かるだろ。フィッツジェラルドバンクが学園に寄付してる手前、学園側から退学させることはしづらいだろうからな。自分でもわかってんだろ?お前才能無いんだからさ。あんなので受かったのが奇跡だろ」
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