表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/162

ep84 打ち上げ②

 一分後......。


「エマ!これを見てくれ!」


 俺はエマに向かって、ライマスの部屋から持ってきた別のスケッチブックを掲げた。

 またさっきみたいのを見せんのか?と言わんばかりに不愉快たっぷりの顔になるエマ。


「ヤソガミまでなんのつもりだよ。悪フザケはやめろし」


「待ってエマちゃん」


 すかさずミアがエマを(いさ)める。


「いいよ。ヤソガミくん、見せて」


「はあ?またキショい思いすんのあーしらだぞ?」


「大丈夫だよ。だってヤソガミくんだもん」


 きっぱりとミアは言い放った。

 え?となるが、それは俺だけ。

 フェエルもエマもまったく驚いていない。


「ぼくもそう思うよ」

「だな。ヤソガミだもんな」


 簡単に障壁は消滅。

 なんだろう、この気分......胸に微熱を感じる。

 とにかく、当初の目的どおりやるぞ。

 俺は遠慮なく、()()とスケッチブックを開いた。


「こ、これって......!」


 途端にエマとミアは食い入るように目を丸くする。

 

「あの人......だよね??」


 スケッチブックに描かれていたのは、子どもたちに握手をする笑顔のジェットレディ。

 

「このイラストは、新聞に載っていた記事から想像を膨らませて描いたものなんだよな?」


 俺はライマスへコメントを求めた。

 ライマスはもじもじしながら遠慮がちに頷く。


「あ、ああ。そうだ」


 一呼吸置いて、エマが思わぬことを口走った。


「こ、これ......ほしい!」


「えっ??」


「あーし、コレ欲しいっ!」


 さっきまでのことが嘘のように、エマは目をキラキラと輝かせてライマスに押し迫った。


「いくら出せばいい??」


「い、いくらって、ね、値段のことか?」


 エマの勢いに圧倒されるライマス。


「そーだよ!ねえ?いくら?」


 突然グイグイと女子に近づかれて恥ずかしいのか、ライマスは赤面して狼狽する。


「い、いくらって言われても、売るために、か、描いたわけではないから」


「えー!そこをなんとか!」


「そ、そんなに、欲しいのか」


「だってチョーイイ絵なんだもん!」


 この瞬間。ライマスの牙城は完全に崩された。


「あ、あげるよ」


「え??」


「だ、だから、無償で譲渡してやると言ってるんだ」


「マジで!?」


 少女のようにわくわくするエマに、ライマスはそのページを綺麗に千切(ちぎ)って渡した。


「あ、ありがと〜!!」


 きゃーっと歓喜するエマ。

 それからライマスはいったん自室に行って、何かを持って戻ってきた。


「こ、これ、キャットレー氏に」


 次にライマスが差し出したのは、新たに描いたポップ。


「み、店で使ってくれ」


「かわいい......!ありがとう、ライマスくん」


 ミアは満面の笑みで感謝した。

 ......ほっとした。

 うまくいった。

 やっぱりライマスの絵は、人を喜ばす力があるみたいだ。


「一件落着だね」


 フェエルも安堵の笑顔を浮かべた。

 この後。

 打ち上げは、ライマスも含めて楽しく盛り上がった。


 しかしこの時、俺はまだ気づいていなかった。

 さっきまでライマスが沈んでいたのは、なにもエマに怒られたからだけではなかったことに。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ