ep84 打ち上げ②
一分後......。
「エマ!これを見てくれ!」
俺はエマに向かって、ライマスの部屋から持ってきた別のスケッチブックを掲げた。
またさっきみたいのを見せんのか?と言わんばかりに不愉快たっぷりの顔になるエマ。
「ヤソガミまでなんのつもりだよ。悪フザケはやめろし」
「待ってエマちゃん」
すかさずミアがエマを諌める。
「いいよ。ヤソガミくん、見せて」
「はあ?またキショい思いすんのあーしらだぞ?」
「大丈夫だよ。だってヤソガミくんだもん」
きっぱりとミアは言い放った。
え?となるが、それは俺だけ。
フェエルもエマもまったく驚いていない。
「ぼくもそう思うよ」
「だな。ヤソガミだもんな」
簡単に障壁は消滅。
なんだろう、この気分......胸に微熱を感じる。
とにかく、当初の目的どおりやるぞ。
俺は遠慮なく、ばっとスケッチブックを開いた。
「こ、これって......!」
途端にエマとミアは食い入るように目を丸くする。
「あの人......だよね??」
スケッチブックに描かれていたのは、子どもたちに握手をする笑顔のジェットレディ。
「このイラストは、新聞に載っていた記事から想像を膨らませて描いたものなんだよな?」
俺はライマスへコメントを求めた。
ライマスはもじもじしながら遠慮がちに頷く。
「あ、ああ。そうだ」
一呼吸置いて、エマが思わぬことを口走った。
「こ、これ......ほしい!」
「えっ??」
「あーし、コレ欲しいっ!」
さっきまでのことが嘘のように、エマは目をキラキラと輝かせてライマスに押し迫った。
「いくら出せばいい??」
「い、いくらって、ね、値段のことか?」
エマの勢いに圧倒されるライマス。
「そーだよ!ねえ?いくら?」
突然グイグイと女子に近づかれて恥ずかしいのか、ライマスは赤面して狼狽する。
「い、いくらって言われても、売るために、か、描いたわけではないから」
「えー!そこをなんとか!」
「そ、そんなに、欲しいのか」
「だってチョーイイ絵なんだもん!」
この瞬間。ライマスの牙城は完全に崩された。
「あ、あげるよ」
「え??」
「だ、だから、無償で譲渡してやると言ってるんだ」
「マジで!?」
少女のようにわくわくするエマに、ライマスはそのページを綺麗に千切って渡した。
「あ、ありがと〜!!」
きゃーっと歓喜するエマ。
それからライマスはいったん自室に行って、何かを持って戻ってきた。
「こ、これ、キャットレー氏に」
次にライマスが差し出したのは、新たに描いたポップ。
「み、店で使ってくれ」
「かわいい......!ありがとう、ライマスくん」
ミアは満面の笑みで感謝した。
......ほっとした。
うまくいった。
やっぱりライマスの絵は、人を喜ばす力があるみたいだ。
「一件落着だね」
フェエルも安堵の笑顔を浮かべた。
この後。
打ち上げは、ライマスも含めて楽しく盛り上がった。
しかしこの時、俺はまだ気づいていなかった。
さっきまでライマスが沈んでいたのは、なにもエマに怒られたからだけではなかったことに。
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