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ep83 打ち上げ

 *


「なんでここなんだ......」


 腑に落ちない俺をよそに、エマはきゃっきゃとはしゃいでいる。


「あーし、寮に来たのはじめてだし!けっこー広いじゃん!」


「エマの家に比べたら全然たいしたことないだろ」


 俺とライマスが暮らす寮の部屋に、フェエルとエマとミアが遊びに来ている。

 ここが打ち上げ会場らしい。


「そもそもここに女子は入れちゃいけないんだけど」


「だから楽しーんだろぉ??ホントはカワイイ女子ふたりが部屋に来てコーフンしてるくせに〜!」


 悪戯っぽく笑うエマ。

 参ったな、と思いながら横を見れば、まんざらではなさそうな様子をひた隠すライマスがいた。


「べ、べべべべつにコーフンなどしていないぞ!」


「なんだよその反応。ガチじゃん」


「ギャルモンスターなど余の眼中にない!」


「その呼び方ヤメろよ!......あっ、これって」


 ぷんぷんしながらエマは、ふとリビングのテーブルの上に置きっぱなしにされたスケッチブックに目をやる。


「この前、ヤソガミが見せてくれたやつじゃん」


 エマがそれに手を伸ばしたと思ったら、突如()()としたライマスが不自然に焦りだした。


「ま、待て!!」


「なんで?この間も見たからいーじゃん」


「あっ......」


 一歩遅かった。

 エマはスケッチブックを手に取って開く。

 直後、エマとミアの顔が、サーッと一気に凍りつく。


「そ、それはアウトだね......」


 これはフォロー不可能と判断したフェエルが冷や汗混じりに言った。

 エマは冷酷な眼光でライマスを睨みつける。 


「この、エロい姿で絡み合ってるの、あーしとミャーミャーだよな」


 一方で、ミアは心底ドン引きしていた。

 さすがのライマスも狼狽してあわあわとしている。


「ち、違うんだ!これはアートなんだ!」


「言い訳はそれだけか」


「イヤラシイ目的で描いた訳ではない!純粋な芸術的好奇心だ!」


「うんうん、そうだよね〜って、言うと思ったかぁぁぁ!!」


 エマの鋭い蹴りがライマスの体にズドッとめり込んだ。


 悶絶(もんぜつ)するライマス。

 一同、気を取り直し......。

 打ち上げが始まる。


「おつかれ〜!!」


 ジュースで景気良く乾杯。

 ミアが持ってきた彩り豊かなパンや焼き菓子を囲み、俺の隣に座ったフェエルが幸せそうに微笑んだ。


「なんかいいね。こういうの」


「どれも美味しそうだよな。こんなに頂いちゃって悪い気もするけど」


「そういうことじゃなくて」


「こうやってばーっとテーブルに広げると豪華に見えてより美味しそうになるよな」


「ちがうって」


 クスッと笑いながらフェエルは目を細める。


「こういう時間のことだよ。みんなで楽しく過ごす時間」


「あ、そういうことね」


 みんなで楽しく過ごす時間、か。

 よくよく考えると、クラスメイトとこんな感じで遊ぶのって、いつ以来だろう。

 中学の初めの頃にあった気もするけど、その後のぼっち期間の比重が大きすぎて記憶がない。

 明確な思い出というと小学校時代まで遡る。

 そんな俺が、こうやってみんなで楽しい時間を過ごしている。

 

「行動が結果を生む...か」


 大変なこともあったけど、行動して良かった。

 イジメられていて孤独だったフェエル。

 挫折して荒んでいたエマ。

 そんな彼女と歪んだ関係性で苦しんでいたミア。

 何もしなかったら、こんな時間はやって来なかったはず。

 もちろん失敗する可能性だってあったし、俺だけの力でもない。

 もっとうまくできたのかもしれない。

 だけど......俺は確かに、行動したんだ。


「俺も少しは、変われたのかな」


「どうしたんじゃ?小僧」


「あっ、イナバ」


 部屋で寝ていた白兎がひょっこりやってきて、ぴょーんと俺の肩に飛び乗った。


「若いくせにしっぽりしおって。どうもお主はそういう所があるな」


「べつにいいだろ?俺はこういう性格なんだ」


彼奴(あやつ)もそういう性格なのか?」


 イナバが訊いてきたのは、しゅんとしているライマスのこと。

 奴はエマにこっぴどく叱られてすっかり(しぼ)んでいる。

 身から出た錆とはいえ、ちょっと可哀想になってきた。

 絵自体はマジで上手だし、もっと普通に描いていたなら、エマにもミアにも喜ばれたかもしれないんだ。

 実際、ミアの店で描いた可愛いポップは、子どもを中心にお客さんに大好評だった。

 きっとライマスの描くイラストには、人を喜ばせる力があるんだと思う。


 今回の成功。

 ライマスだって貢献者なんだ。

 俺からしたら、協力を依頼した手前もある。

 ここは俺がなんとかしてやらないと。

 ......といっても、相手はギャルお嬢のエマ。

 なにか良い手立ては......あっ、そうか!

 だったらライマスの絵で、エマを喜ばせてやればいいんだ。


「ライマス!」


「な、なんだ?ヤソガミ氏」


「スケッチブックだ!」


「は?」

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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