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ep76 ミアの悩み(ミア視点)

 * * *



 フィッツジェラルドバンクから融資してもらって今はなんとかなっているけど、この先は大丈夫だろうか。


 うちのパン屋には飲食スペースもあって、以前までは日々賑わっていた。

 だけど向かいに人気チェーンのベーカリーができてからは一変。

 様々な焼菓子も販売していて品揃え豊富。

 おまけに広々としたイートインスペースも具備した新店は、またたく間にお客さんを取り込んでいった。

 おかげで、うちの店の売り上げは激減。

 人員も削減せざるをえなくなり、わたしがその穴を埋めている。


「ミアは店のこと気にしなくていいから」


 お父さんとお母さんは固辞(こじ)したけど、放っておけるわけがないよ。

 ただでさえキャットレー家は兄弟姉妹が多く、子育ても、下の子たちを親戚の家に預けたりして手を借りながら、なんとかやっているぐらいなのに。

 わたしだけ気ままな学生生活を送ってなんかいられない。


「もし、フィッツジェラルドバンクの融資がなくなったら......」


 ふとそんなことが頭をよぎり、ゾッとする。

 絶対にエマちゃんとは良好でいないといけない。

 なのにわたし、どんどんエマちゃんとはフツーにできなくなっている。

 ヤソガミくんの一件以来、わたしの中で、エマちゃんへの複雑な感情が抑えられなくなっているんだ。

 しかもエマちゃんは、あんなことがあったのにひとりで立ち直って、わたしのことを助けてもくれた。

 嬉しかった。

 本当に嬉しかったのに、その後わたし......またエマちゃんに対して、すごくイライラしている。


 わたしはずっと、エマちゃんに合わせてきた。

 お店のことがあるから?

 それだけじゃない。

 もしエマちゃんと衝突して学校で孤立しちゃったら......卒業まで頑張れる自信がない。

 わたしはエマちゃんみたいに強くないから。

 フェエルくんみたいな状況になっちゃったら、たぶんわたしには耐えられない。

 だから自分の気持ちを押し隠しても、まわりから嫌われないように合わせるんだ。

 学校生活を平和なものにするために。

 ちゃんと卒業するために。

 ただでさえ裕福じゃない家でワガママを通してもらっているんだ。

 途中で辞めちゃうなんてありえないし、絶対に心配もかけたくない。


「だから、変な噂が広まった時は、本当に危なかった......」


 エマちゃんとヤソガミくんが助けてくれなかったら、わたしは学校に行けなくなっちゃっていたと思う。

 本当に感謝している。

 それなのにわたしは......。


「ああ〜!もう!」


 ダメダメ。

 店でこんなこと考えてちゃ。

 今は仕事中。

 ちゃんとした接客ができなくなっちゃう。

 しっかりしなきゃ。


「あっ、いらっしゃませ〜」


 お客さんがひとり入ってきた。

 女の子みたい美少年......て、あれ?


「フェエルくん??」


「やあ、ミアちゃん」


 フェエルくんは会釈してから、ふっと神妙な面持ちになる。


「いきなりで悪いけど、話があるんだ」


 え?フェエルくんがなんの話?と思ったけど、すぐにピンと来た。


「それ、ひょっとして、エマちゃんに頼まれたとか......?」


 フェエルくんは一瞬だけ躊躇するような表情を浮かべたけど、さっと立ち直った。


「正直に言うね。エマちゃんから相談されたんだ。ミアちゃんのことを。でも、ぼくがひとりでここに来たのは、あくまでぼく個人の意志だよ」


「フェエルくんの意志で?なんで?」


「エマちゃんがいたら、遠慮して思っていることを素直に話せないでしょ?」


「それは...うん」


「エマちゃんだけじゃない。ヤソみんもでしょ?」


「なっ!?なんでそれまで??」


「ぼくにはわかるんだ。ミアちゃんは、ぼくと似ているところがあるからね。必要以上に人の顔色をうかがってしまうところとか。ぼくにはそういうの、わかってしまうんだ」


「似ているところ...か。たしかにそうかも」


「ご、ごめんね!ぼくと似ているなんて、気持ち良くないよね」


「ううん」


「もっともミアちゃんがヤソミんにも遠慮していることは、ヤソみん本人は気づいていないみたいだけどね」


 フェエルくんに言われたとおり、わたしはエマちゃんだけでなくヤソガミくんにも遠慮していた。

 だってわたし、ヤソガミくんを(おとし)めようと色仕掛けをしたんだよ?

 エマちゃんに命令されてやったこととはいえ、未だに恥ずかしすぎるよ。

 その上、迷惑かけたのに助けてもらってお返しもできていない。

 そんなことを思えば思うほどに、ますますヤソガミくんにも遠慮しちゃうんだ。


「......フェエルくんは、人をよく見ているね」


「うん。そうなっちゃった...だけだけどね」


 どこか哀しそうに微笑するフェエルくん。

 この時、わたしは感心するよりも同情した。

 なぜなら、フェエルくんの観察力と洞察力は、彼の望まない経験から身についたものだと思うから。


「フェエルくんになら、話しやすいかも......」


 この後。

 わたしはフェエルくんに話した。

 エマちゃんのこと、ヤソガミくんのこと、店のことまで。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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