ep7 悪くないかも?
*
やった!
布団だ!
横になれる!
「疲れたぁ〜」
ばふんとベッドに倒れこんだ。
「おいおい。食べてすぐ寝ると牛になると親に教えられなかったか?」
イナバが枕元にぴょんと乗ってきた。
「寝る前に今後の方針を決めておくぞ。いつまでものん気にこの村へ留まっておるわけにもいかんからな」
「今後ってなんなのさ」
「すでに説明したじゃろう?お主はいずれオリエンスを救うべく共に闘う仲間を探さなければならぬ」
「そんなRPGみたいなの、俺にはムリだよ......」
「今さら何を言っておる。どの道そうするより他はないのじゃぞ」
「それにさ。国を救うったって、そもそもオリエンスはそんなに危機なの?戦争が起きているわけでもないんでしょ?確かにこの島は色々大変みたいだけど、それはたまたまでしょ?」
「ハァー。平和ボケ小僧じゃな、お主は」
「な、なんだよいきなり」
「危機というのはそうなってからでは遅いんじゃ。そうなる前に準備・対策を講じておかなければならんのじゃ」
「それはそうなんだろうけど」
「今、オリエンスでは〔ゼノ〕の発生と魔法犯罪組織の活動が徐々に活発になりつつある。なのに国家魔術師の人手不足。これはいずれ必ず深刻な問題が生ずる。その先には国家の存亡の危機となるような脅威が待ち受けておるんじゃ!」
「話が大きすぎて重すぎて俺にはシンドイよ。俺はただ、充実した高校生活を送りたいだけなのに。青春を取り戻したいだけなのに......」
「だったらなおさらじゃ」
「どういうこと?」
「ハァー。お主はオイラの言葉を額面通りにしか理解できんのか」
「な、なんだよ、その言いかた」
「いいか?魔術師は国の許可(免許)を受けた国家魔術師となって初めて正式に活動ができる。ではそのための資格はどうやって取るのか?」
「試験を受けるんじゃないの?」
「そうじゃ。そして試験を受けるにも一定の資格が必要じゃ。ここまで言えばわかるじゃろ?」
「そ、そうか!学校か!」
「そうじゃ。それが魔法学園じゃ!」
「ということは......魔法学園に行けば仲間も見つかるってこと?」
「そういうことじゃ。お主の言う充実した青春とやらも味わえるんじゃないか?ま、それは小僧次第じゃろうが」
「魔法学園に行く......か」
考えた瞬間、にわかにテンションが上昇した。
こんな気持ちになるのはここに来て初めてだ。
この際、充実した高校生活、青春が過ごせるなら場所は問わなくてもいいんじゃないか?
こっちの魔法学園とやらで頑張るのも悪くないかも?
むしろこっちなら今までのすべてを断ち切って完全な新スタートが切れる。
「いいかも」
「急にやる気が出てきおったか?」
イナバがニヤニヤとした。
こっちも思わずニヤけそうになったが、ふと肝心なことに気づいた。
というか、なぜこんな重大なことを気にしなかったんだ俺は!?
「なあイナバ!」
「なんじゃ?急にどうした」
「俺って...魔法使えるの?使えるようになるの?」
質問すると緊張して息を呑む。
ところが、
「使えるぞ」
イナバはあっさりと答えた。
「そ、そう......!」
胸が高鳴った。
だって、魔法が使えるんだぞ!?
「じゃ、じゃあさ?どうやって使うんだ??」
期待に胸を膨らませながら訊ねた。
ところが、
「ふんっ」
イナバは渋い顔つきで答えを濁した。
「えっ?教えてはくれないのか?それとも知らないのか?」
「ふんっ。いずれにせよまだ早いわ」
「は?どういう意味?」
「どういう意味も何もない。もう寝ろ」
「なっ!なんだよそれ!」
「うるさいわ!」
「ぐべっ!」
イナバから理不尽な兎蹴りを喰らった。
結局、この日は魔法についての具合的なことは何も教えてもらえないまま眠りについた。
納得はできなかったけど、それ以上に俺は疲れていたんだ。
・作者メモ
「魔法学園」「魔法学校」「魔法学院」
どの名称にしようか迷いました。
あるいは「魔法學園」も考えました。
しかし、そもそものコンセプトが「学園モノ」だったので
そのまま「学園」にしました。
いっそ「魔法塾」や「魔法道場」でもいいかも?
失礼しました。
次回もよろしくお願いします。