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56/162

ep56 理由

「ヤソガミ君。それとも今はヤソミさんと呼んだ方がいいかしら」


 教頭室を出たところで、うしろから教頭先生に呼び止められた。

 彼女は俺に歩み寄ってきて、意外なことを口にした。


「ジークレフさんとは仲良くしている?」


「えっ??」


 質問の意図がよくわからなかった。

 なんでここで美少女学級委員長のことを?


「ええと......」


 返答に(きゅう)しながら、あっと思った。

 深緑の髪をアップにして細フレームの眼鏡をかけた知的な女性。

 リュケイオン魔法学園の教頭である彼女の名前はマリーヌ・ジークレフ。

 特異クラスの学級委員長と同じ、ジークレフという姓。

 あの()の母親なのか?

 そんなに似てはいないけど、美人なのは共通している。


「いえ、やっぱり何でもないわ」


 彼女はすぐに引き下がってきびすを返した。

 俺はきょとんとするほかなかった。

 マリーヌ先生は、いったい何を知りたかったんだろう?


 *

 

 とっくに放課後となった教室。

 俺たちが戻るなり、白兎を抱いたフェエルが心配そうに駆け寄ってくる。


「そ、それで、処分は」


「おとがめなしだってさ」


「ほ、本当に!?」


「小僧!よくやった!」


 イナバがぴょーんと俺の頭に飛び乗ってきた。


「悪党どもとの戦闘を見られなかったのが残念じゃが」


 そのまま俺とフェエルとイナバでわいわいとやっていたら、

「おい」

 いきなりエマがずいっと入ってきた。

 その顔には複雑な色が浮かんでいる。


「オマエ、ヤソガミだったんだな」


「ああ、そうだよ」


「あーしを(だま)したんだな」


「お互い様だろ」


「ミャーミャーは知ってたのかよ」


「ミアも知らないよ」


「そっか」


 エマは一呼吸置いてつぶやくように言った。


「なんであーしらを助けにきたんだ」


「えっ」


「だから!なんであーしらを助けにきたんだよ!」


 エマの声のボリュームが上がる。


「あーしもミャーミャーもオマエを()めた敵だろ?なんで敵二人をわざわざ体張って助けにきてんだ!」


 エマは必死だ。

 彼女の言うことはわかる。

 エマに対してもミアに対しても良くない感情があるのは事実。

 ハッキリ言ってムカついている。

 だけど、うまく言葉にはできないけど、もっと大切なことがある気がする。


「あたし...いや、俺は......」


「なんだよ!言ってみろよ!」


「ジェットレディみたいな、カッコイイ国家魔術師になりたい......のかな」


 俺が口にした事にエマが目を()いて驚いた。

 それ以上に、自分で自分にびっくりした。

 俺、いきなり何を言ってるんだ?

 わけもわからずこの世界に来て、いまだに地に足がついているとも言い(がた)いのに。

 そもそも俺は、楽しい高校生活を送りたいだけのはず。


 ......いや、だからこそなのかな。

 フェエルのような友達と一緒に、国家魔術師を目指して頑張りたいなって。

 そしてどうせ目指すなら、ジェットレディのような国家魔術師がいいって。

 今ならそう思う。


「ふ、ふ、ふ......フザけんなぁ!!」


 エマは泣き叫ぶような大声を上げたかと思うと、

 

「オマエなんか、オマエなんか、オマエなんか......」


 次第に力なく膝をついて崩れてしまう。

 彼女の感情が今ひとつよくわからない。

 俺を嫌っているにしても、エマとはたいして関わっていない。

 そもそもエマは、トッパーたちに協力して俺を(おとし)めようとしただけじゃないのか?


「なあ、エマ。きいていいか」


「......なに」


「お前はなんでそんなに俺を嫌うんだ?」


 エマはうなだれたまま答えない。


「教えてくれ」


 一向にエマは答えてくれない。

 そんなに言いたくない理由があるのか?

 あまり無理して聞き出すのは良くないんだろうけど、今の俺には当事者として聞く権利があるはずだ。


「エマ」


 俺が諦めずに(たず)ねようとしたら、彼女に代わって横からミアが思わぬ返答をした。


「エマちゃんは、ジェットレディに憧れて国家魔術師を目指していたんだよ」

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

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気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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