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ep15 担任

「どうした小僧。何をぼーっとしておる」


「いたっ」


 イナバに小突(こづ)かれてハッとした。


「ご、ごめん」


「さっさと歩かんか」


「わ、わかってるよ」


 我に返って、敷地内を進みながら改めて校舎に目をやる。

 実に立派な校舎が(たたず)んでいる。

 歴史と伝統の重みを感じる、西洋風のお城みたいな校舎。

 

「ここで魔法を学ぶのかぁ......」


 などとつぶやきながら歩いている俺の前に、スッと何者かが現れる。


「おはようございます。貴方が本日付で我が校に入学するヤソガミ君ですか?」


 その人は俺を見て微笑んだ。

 

「は、はい。そうですが......」


「理事長から聞いておりましたから。正確に言えば、ジェット・リボルバーから理事長経由で聞いたとなりますがね」


「は、はあ」


「失礼しました。自己紹介が遅れましたね。私はヤソガミ君のクラスの担任となるクワイア・ハウです。よろしくお願いします」


「あ、よ、よろしくお願いします!」


 慌てて挨拶を返しながら、改めてその人を見つめた。


 二十代後半か三十代かな。

 シンプルな黒いスーツに無地のシャツにネクタイ。

 真ん中分けの黒髪。地味なメガネ。

 背丈は少し高いけど細身の体型。

 ちょっと暗そうで、でも真面目そうな人......。

 良かった。

 怖そうな人じゃなくて。


「どうかなさいましたか?」


「い、いえ!なんでもないです!」


「それでは私が教室まで引率いたします」


 先生についていきながら、いくぶん気が楽になってきた。

 魔法学園の先生といったら、とんでもないエキセントリックな人が出てくるのかと思っていたけど、良い意味で裏切られた。

 クワイア先生のごくごく普通な雰囲気に、俺の気はやわらげられた。


「まさかあのコランダムクラスの国家魔術師(レース・マグス)であるジェットレディにみそめられるなんて、ヤソガミ君はすごい人なんですね」


「そ、それは、たまたまで」


「しかもその白兎。使い魔でも召喚獣でもない。神使ですよね」


「ほう。わかるのか、クワイア教師よ」

 イナバが答えた。


「やはり人の言葉を操れるのですね」


「さすがは魔法学園の教師といったところか」


「いえいえ。ちなみに私のことはハウとお呼びください。教師および生徒たちからはハウ先生と呼ばれています」


 ハウ先生はイナバに対し、すべてを知っているかのごとく極めて泰然としている。


「そんな珍しいものを連れているヤソガミ君はやはり普通の生徒ではないようですね。特待生としてこんなタイミングで入学してくるのも(うなず)けます」


「はあ」


「しかし理事長も(こく)な人です」


「え?」


「特待生を私のクラスに入れるなんて」


「どういう意味ですか?」


 俺の質問にハウ先生はピタッと立ち止まる。


「リュケイオン魔法学園には普通科と魔法科があります。そして魔法科には特別クラスと特異クラスがあります」


「はい」


「普通科には国家魔術師を目指さない生徒が集まります。将来は魔法省の職員や国家魔術師の補助者になるなど、魔法関係の職種に()く人が多いです。

 一方、魔法科には、国家魔術師を目指す将来の魔術師たちが集まります。特別クラスは、まさに魔法学園の核となるクラスとなります」


「......特異クラスは?」


「特異クラスは......そうですね。なんというか...魔術師を目指してはいるものの、やや事情を抱えた生徒が集まります」


「はあ」


「そしてヤソガミ君」


 ハウ先生が肩越しに振り向いた。


「私のクラスは特異クラスなんです」


「え?」


「つまりヤソガミ君は、特異クラスの特待生という、極めて異例な存在なんです」


 正直、特待生という肩書きは重かった。

 けど、同時に誇りに思ってもいた。

 ところが実態はどうやら少し違うらしい。


「なあイナバ。これってどういうことなのかな」


「知らん。特別だろうが特異だろうがなんでも良いじゃろ」


「なんでもいいってそんな」


「ほら、ハウ教師が歩き出したぞ。ちゃんとついていけ!」


「わ、わかったよ」


 この時の俺には知る由もなかった。

 のちに八十神天従という生徒が、この歴史ある魔法学園において、望む望まないにかかわらず、異端児として広く知れ渡ることになるのを......。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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