ep103 恐れていること
「まあ、そういうことだから」
ナイフ使いのノエルがにやりと残酷な笑みを滲ませる。
「おれたちがやった行為、これからやろうとする行為は、ルール上まったく問題ないってこと」
「てことで、特待生のヤソガミ!オレたちと戦え!オレはお前と闘り合えるのが楽しみだったんだ!」
斧使いのマッキンリーが嬉しそうに俺をビシッと指差してきた。
勘弁してくれと思ったが、その体育会系な体格と真っ直ぐさには、暑苦しいと同時にどこか清々しさも覚える。
俺は苦手だけど、案外悪い奴ではないのかもしれない。
ノエルのほうはわからないが......。
「さあどうする?特待生のヤソガミくん」
ノエルが問いただすようにナイフを向けてきた。
「もっとも君が逃げてしまったら、じきに特異クラスは全滅になるだろうな」
「どういうことだ?」
「今ぐらいがちょうど頃合いだろうな。狩りの時間の始まりだ」
「お前ら、まさか」
「さっき自分でも説明していただろ?手っ取り早く評価を稼ぐ方法を。強い特別クラスの生徒が弱い特異クラスの生徒を叩くのは当然だろ?」
「でも、特異クラスにはジークレフ学級委員長もいるしセリクだっているぞ」
「セリク・クレイトンはそもそもやる気ないから期待するだけ無駄無駄。ジークレフ嬢も実力者なのは知っているけど、相手が悪いな」
「相手って誰だ?」
「レイ姉妹だよ。あいつらはバケモンだ。しかもどうやらランラもリンリもジークレフ嬢には因縁があるみたいだから、タダじゃ済まないだろう」
あの双子がジークレフ学級委員長を狙っている?
ヤバい。
彼女たちの戦い。
正直、見てみたいぞ。
レイ姉妹の実力も気になるが、ジークレフ学級委員長が本気を出すところも見てみたい。
「おいおいヤソガミ!人のこと気にしてる場合じゃねーぞ!」
マッキンリーが暑苦しく俺の目を覚まさせる。
そのとおりだ。
今は目の前の状況をなんとかしなければ。
「エマとライマスは退がってろ。フェエルとミアでノエルの相手をできるか?」
フェエルとミアは不安そうにこくっと頷く。
「そ、そうするしかないよね」
「ふ、ふたりなら、なんとか」
「俺はあの暑苦しそうな奴をなんとかする」
とは言ったものの、大丈夫だろうか。
俺は人間を相手に戦ったことは過去に二度しかない。
一回はトッパーをぶちのめした時。
もう一回は拉致されたエマたちを助けるために魔法犯罪組織エトケテラと戦った時。
いずれも俺はヤソミに変幻していた。
つまり、素の状態で人と戦うのは、これが初めてになる。
「どーしたどーした?特待生のヤソガミくんよぉ?まさかビビってねえだろーなぁ?」
斧使いのマッキンリーがイキってくる。
はい。実際ビビってますけど何か?と言い返したかったが止めた。
「小僧。怖がっておるな?」
イナバが頭の上から肩に降りてきた。
「誤魔化しても無駄じゃぞ」
「わ、悪いかよ」
「別に攻めている訳ではない。問題は、お主が恐れていることが二つあるということじゃ」
「!」
イナバは、やっぱりな、という顔をした。
はい。その通りです。
神使の白兎の言ったことは正解です。
俺は二つのことにビビっている。
一つは相手に対してだが、実はそれよりももっと、大きくビビっていることがある。
「相手を殺してしまわないか、心配なんじゃな」
イナバがその言葉を吐いた瞬間。
マッキンリーの顔色がさっと変化した。
「ヤソガミ。お前。おれをナメてんのか」
さっきまでとは一転、彼の眼は座り、声のトーンが下がる。
なんだ?キレたのか?
「べつにナメてはいない。むしろ警戒している」
「おれを殺さないように警戒してるってことか」
「は?違うぞ」
「ヤソガミ。テメーは......ぶっ潰す!!」
ドン!とマッキンリーが斧を振りかざして勢いよく飛び出してきた。
怒りの表情で、真っ直ぐに俺だけに向かって。
「いきなりかよ!」
どうする?なんて考えている暇もない。
てゆーか、あんな斧で攻撃されたら、それこそ俺が死ぬんじゃないか?
「ヤソガミ!」「ヤソガミ氏!」
俺の傍らにはエマとライマスがいる。
この位置でやり合ったら巻き込んでしまう。
まずは移動した方がいい。
「なっ!?ヤソガミ!特待生のくせに背中見せて逃げんのか!?チキン野郎が!」
背中でマッキンリーの罵倒を浴びながら、みんなと離れていくように森を駆けた。
当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。
面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。
気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。




