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9.「第三の波」による文化的勝利(後編)

 不覚、前回の話って似たような内容になってしまった。


 ともあれ、前提を踏まえないと意味の無い昔話ですからね。ネット社会でニフティーサーブの頃から、ドップリと産湯を使い面白そうな事を探して生きてきた人生です。


 何が面白かったのか? という問いから始めないと……。


 オタク文化というものは、現在酷い状況になっていると思われている。だが、これでもまともになったのだ。1990年代のお話。


 当時、オタクには人権が無かった。いい歳してゲームやアニメに夢中になる変な奴。クラスに一人か二人いるだろう、そう言う人間達だった。だが、彼らは面白いと思った物を追求していただけだったのだ。


 その状況が変わったのは、あるオタクが犯罪事件を起こした事だった。「オタクは犯罪予備者!」と声高に叫ばれたのだ。ロリコンやゲーマーも等しく弾圧された。オタク達は自分の事をひた隠し、誰にも見つからない様にひそひそと地下に潜った。そんな時代だったのだ。



 ある時、誰かが言った。「オタクの評価を上げれば良い。海外からの評価というものにこの国の人間は弱い。これはアートだ! 海外では人気なんだと、騙せば良い」


 そんな上手く行くとは誰も思わなかったが、実際に上手く行ったのだ。この頃の海外アート界は、一通りの表現をやり尽くしてしまい、人間を変換したり質感を上げたりといった方向に向かっていた。


 まぁ、具体的には「芸術家が木の板に舌を載せてそのまま釘で打ち付ける」というのが最先端だったらしい。あれは、ヤバい。そんな状態で現れたのがオタク文化だったのだ。


 当時のオタク文化は、「萌え」では無かった。だが、その特殊性の一部は海外勢の目に留まった。具体的には「可愛い美少女に機械を付けたり、変形させたりする」ものだった。当時は「MS少女」などと呼ばれたが、今なら「機械の美少女化」など普通の事だが、当時は細々とやっているだけだった。


 だが、西洋アート界にとってはアニメ絵も機械と美少女の融合も物珍しく映ったらしい。ともあれ、オタク文化が海外の目に留まった出来事だった。


 そう言うイロモノではあるが、「オタク文化は海外で人気!」などとその手の専門家が煽ると、オタク文化というものが目に留まる。今まで世間で馬鹿にされてきたこの趣味が、大手を振って宣伝できるなら何でも良かった。


 いつしか、そう言うイベントで「オタク文化」というものがとにかく表に出て、TV局なんかでコスプレが取材されたりした。分かり易かったからだ。実際の所、そう言う表層的な物とは裏腹に、オタク文化はアンダーグラウンドな場所へ優秀な人材を送り込み始めた。


 ……いわゆる「エロゲ―」「エロマンガ」「コミケ」界隈である。


 何で? と言われれば、その業界はとにかく「可愛い女の子の裸」を出せば、何でも出来たとしか言いようがない。とにかく、可愛い女の子が描きたい! 表現したい! と思えば、そこに行くしか無かったのである。


 そういう自分も、最初はその目的で近づいた。こちとら多感な年頃で、手元にはパソコンがある。ネットの情報を頼りに、面白い作品を探していたのだ。


 1994年頃、ラブコメブームが一世を風靡した頃に「ギャルゲー・エロゲ―」が活発になった。最初は「ときめきメモリアル」辺りでは無いだろうか。当時、シューティングや格闘ゲームしかしていなかったゲーマー達が、過疎化したゲームを手に取った。


 当時はまだインターネットは殆ど利用されてはいない。一部のコアなゲーマー達がたちまちパニックとなった。俗に言う『ときメモショック』である。


 当時、PCエンジン会議室と言うものがニフティーサーブ上にあった。そこは場末の掲示板で、書き込みされる事も無いうろぶれた場所だった。そこに美少女への耐性など無い、硬派なゲーマー達が次々に書き込み始めた。彼らは伝染病のように増え、瞬く間に掲示板が溢れた。


 今なお続く「女性キャラ人気投票」や「好きなキャラの二次創作小説」が始まったのがこの頃なのだ。


 溢れる想いが形になり、初めて『創作』の扉を叩いた者もいた。マイナーだったゲームを世に出したい! 広めたいとの一心で、何でもやったのだ。


 結果的にゲームメーカーから、「ギャルゲー」というのは儲かるというのがきっかけになった。オタク文化による『創作』の始まりはこの辺りからだ。一方コミケでは、美少女アニメやゲームのエロマンガが人気になり始めた。


 キッカケなんてそんなもんだ。その頃は、文章の書き方も分からず、台本みたいな小説や台詞のみの話など、誰も、小説の書き方なんか知らなかった。ただ、自分の想いを書き起こしたい! それだけだったのだ。


 自分も同時期に初めて小説を書き始めた。当時のオタク達は、好きになった作品は『創作』するものだと思っていた。その気持ちをぶつけるのが楽しかったのだ。


 やがて、読みやすくて分かり易い方法や創作論と言った物を漁りながら試行錯誤を繰り返していった。未だにその時の原稿は残っている。……誰にも見せたくは無いが、拙いながらに考えていた事は伝わる。



 ともあれ、そこから10年位は「好きな作品に出合う」→「とにかく書く・描く」→「コミケに行く」→「同じオタクと出会う」という流れが出来た。コミケの会場が広がり、日数が増え……何時しか当たり前の事になった。


 「エロゲ―」が「ゲーム」から「物語」に変わったのもこの頃だ。オタク達はその「物語」を「模倣」しながら、『創作』というものを学んでいった。


 出会いもあれば別れもある。芋づる式に新しい作品と出会い、ある時は無名の人物の動画をダウンロードしまくったり、長い行列に並んでグッヅを買うのが当然になった。


 ただ、この頃になっても「創作する側」と「受け取る側」というのは、結構なハードルがあった。ともあれ、コミケと言う場であれば、プロと同じ場所で創作物を公開する事が出来た訳だ。


 そういう意味で、コミケとオタク文化と言うのは切っても切れない関係なのだ。初めて『創作』したのが、コミケと言う人も多い。今ではプロとして活躍する人もコミケ出身というのは多いのだ。


 人気さえあれば、何でもオタク達は集まり話題になる。同人ゲームから企業まで立ち上げた人もいるし、弱小メーカーが業界のトップに躍り出る事もあった。


 当時のオタク界隈と言うのは、とにかく人が集まり何かを作って広める。そういう文化だった。何時しか、海外からもオタクが出始めた。


 海外でもオタクと言うのは発生する。例えそれが戦争中であっても、文化の違いがあろうとも決していなくなる事は無い。遥か昔に見た日本のアニメをきっかけにオタクになる外人も多い。


 ……そうして、日本に来てハマる外国人が増え始めた。オタクと言えば、長年色々な作品に接しないと慣れないと思われていたが、そんな状況は2005年位から変化を見せる。



 ある時、年配のオタク達は「擬人化って何?」と叫び始めた。今では、オタクなら当然理解しているであろうそれは、古くからオタク文化に接している人達にとって未知の文化だったのだ。


 それまでは、アニメやゲームに特撮と言ったプロの作品を追っていればオタクだった。


 だがある時、オタクの中に「自分達で創作を始めた人間」が現れた。彼らは、自分の好きなものを「美少女」に作り替えた。


 ゆっくりとオタク文化に『創作』が根付いていたのだ。オリジナルの作品として、好きな電車をゲームのキャラを、戦争の兵器を……とにかく自分達の好きな気持ちを「美少女」にし始めた。


 ……やがて、『創作と表現』はオタク文化の異端から本流に変わった。


 オタク達は、ありとあらゆる物を「美少女化」し始めた。専門のキャラデザインをする人も現れた。


 当然、経済活動と結びついて様々な『擬人化』が溢れた……。


 その後は、今に続くオタク文化が残った。当然の様に「可愛い女の子」が最高の価値観となった。音声合成のソフトが女の子の声になったのもこの頃だ。


 フリーソフトで、「MMD」や「ゆっくりトーク」などが作られ、当然のようにそれを使った創作物が増える……。何時しか、オタク達は素人がイベントを行い、会社を作り商品を売り始めた。


 気が付けば、素人がプロの世界でデビューする事も珍しくなくなり、ネット上では専門家と素人オタクが同じように議論をしている。


 「情報化社会」というのは、「情報を作る」「情報を発信する」のが誰にでも出来る社会である。


 そして、それは各自の試行錯誤の末に『創作』という力になり、その為の方法も「情報」として伝わった。


 そして今。人類は「専門職」という、人類が長年行ってきた行為をしなくても良くなった。


 もちろん、「専門職」自体は無くならないが、膨大な知識や経験が無くとも可能になったのだ。


 まだまだ、その行動自体は「模倣」の域を出ない物もある。一方で「模倣」を嫌い、自らの「物語」を考える人々も増えた。『創作』というものが更に広まっていく未来である。

何とか、自分の知っている歴史と今の状況を『創作』というキーワードで説明出来たと思います。


本当は、もっと色々とあった訳ですが……。


当時の感覚を伝えるなら、この程度の情報量かと。MMDだけで3回分くらい語れますし……。


まあ、色々あったんです。色々と。


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