16.宇宙世紀がSFなのでのであれば、神よ! 宇宙世紀を終わらせ給え!!
創作物には、始まりがあり終わりがある。あって欲しい……。
世に終わらぬ創作物のなんと多い事か。嘆かわしい事である。
真に創作物を愛するのならば、金づるにして資本主義的な考えを止めて、きっちりと終わらせるべきだ。
その機会さえ与えられず、フォアグラのようにただ太らせるだけ。
そんなにその作品で儲けたいのか? 冒険心は無いのか?
一人の物書きとして、声を大にして言いたい!!
創作者を持て余すことなく、きちんと終わりを書かせてやれ! 延命させようとするな!
そう言う事である。物語の終わりこそが、最高のカタルシスである。
それを迎えさせてやれないのは、世の中が間違っている!!
例を出すまでも無く、ガンダムという作品で見られる。宇宙世紀というSFの舞台。
逆シャアできちんと完結したように見せかけ、小説版だのユニコーンだの後付け作品で胸焼けしそう。
冨野監督にきちんと引導を渡させろよ! 新約Zガンダムなんて蛇足だろ、何やってんだあなたたちは!!(カミーユ的に)
そういう訳で、広げた大風呂敷をきちんと畳めるのが、本当に優れた創作者なのだ。
……自分でやってみてわかった。始める事や広げる事は簡単だ。誰もが納得する結末に畳む事が、いかに難しいかという事を。
個人的に好きな作家がいる。名を「長谷川祐一氏」という。SFと少女の裸が大好きな変態漫画家先生だ……先生は、もう30年になろうかというベテランだ。
昔は、売れない漫画家で、掲載する漫画雑誌が廃刊する事で有名だった。
コミックNORAに少年キャプテン……これらの雑誌の出身者は多い。
皆、ひりつくような環境で廃刊を恐れながら、必死に漫画を描いたのだろう。
当時、自分も含め子供だったので買うだけの財力は無かった。
ジャンプやマガジンの様な少年誌でもない。月間青年誌だ……80年代SFと言えばというほぼ唯一の活動場所だったと思う。後はアフタヌーン位。
それ程、当時の青年漫画はオタク的な環境だった……漫画と言えば、ジャンプやサンデー黄金期だ。
その様な環境だからこそ、自由に創作できたのではないか。
代わりについたあだ名が「掲載する雑誌を廃刊に追い込む漫画家」である。
違うのだ! 廃刊間際の雑誌で必死に屋台骨を支えていただけだ。
たがみよしひさ、竹本泉、克・亜樹、あろひろし……現在でも現役の大物揃い。
……新進気鋭の青年誌の登竜門ともいえる。
ここでデビューして、人気が出たら別の雑誌で連載がヒットする。
そんな感じ……まぁ、呪われてるの? と思うのも無理はない。
その中でもSFスペースオペラという、絶滅危惧種や巨大ロボットファンタジーと言った時代を少し早回しした作品を発表していたのが、『長谷川祐一』という漫画家なのだ。
「マップス」とか「轟世剣ダイ・ソード」が出世作であり、代表作でもある。
まったくの新人が書いた読み切りが突然連載させるという話になったという……異例の抜擢であり、チャンスでもあった。
だから、何でも書いた。考え付く限りのSFやファンタジーをぶち込んだ……ふう。まぁ、変な漫画家で良いと思う。本人もそう言っていたし。
とにかく筆が早くて、どんな無茶でもやらかす人。月刊専門は良く聞くが、3本掛け持ちとかもやっているのだ。
NHK出版の「飛べ!イサミ」という作品は、毎月刊行とか異次元の早さだった……古い作風とはいえ、無茶にも程がある。
そんな訳で、ガンダムやらゲッターやら、ライディーンやらイデオンやらも書いている。何だよそれ?
特撮と古いロボットアニメが大好きなのである……ただそれだけなら良い。
NHK出版から特撮、それも戦隊シリーズや仮面ライダーと言った作品を科学的に交渉して楽しむというホンマで出した。元々SF大会でのイベントがきっかけだった。
「すごい科学で守ります!」シリーズである。ご本人曰く、「理屈と膏薬はどこにでも付く」らしい。
結構な部数を発行して、当時の空想科学系の本とは一線を画す面白さでヒットした。
今でも入手可能なので、是非興味があれば読んでみて欲しい!!
とにかく、公式が言った事をきちんと理屈をつけ架空の科学組織を作る! そして、それを解析して巨大ロボットを製造するのだ!
何を言っているか分からないが、私も分からない。でも、否定的に笑い飛ばすのではなく、強引でも理屈を通すというのは、この漫画家の本質であり、魅力なのだ。
大風呂敷を広げて畳める人、というのが相応しい。
そして、今の肩書で言えば「クロスボーンガンダムの人」である。「富野由悠季の後継者」と呼ぶ人もいる。
どういう訳だか、「逆襲のギガンティス」という作品で、ガンダムvsイデオンをやったり、Ⅴガンダムの外伝を書いたりしているのだ。スパロボ好きなら分かるかもしれない。
元々クロスボーンガンダムは、F91の続編という扱いだった。だが、興行成績の伸び悩みで、その原作を漫画にするという話になった。
経緯は良く分からないが、「面白い小僧」扱いではなかっただろうか? 変な人脈があるのだ。
ともあれ、その原作を換骨奪胎して、木星帝国と戦う海賊という物語は、大変人気が出た。
それこそ、スパロボのメインストーリーに組み込まれる位。
そして、それ以降もその物語は主人公を変えてガンダムサーガとして続く。
最後の宇宙世紀が掛かれるのだ。タダのモブっぽい少年が突然ガンダムに乗り込む。その物語で出てきた少年が次の物語の主役になる。
そうやって繋がれたたすきで、宇宙世紀を終わらせるのだ!!
地球に9000万人を詰め込んだスペースコロニーを落とす。宇宙はもう住む余力が無い程、技術が衰退していた。僅かな希望を「ダスト」と呼び、その無茶を通す。
宇宙世紀は、スペースコロニーを落として始まった。
だから、スペースコロニーを落として終わらせるのだ!!
何という無謀、何という想像力とストーリーの見事さ!!
これだよ、私が憧れ楽しんだSFの魅力は……こんな事を思いつく人がいるなんて!!
ガンダムという作品にとって、宇宙世紀とは呪いであった。
一年戦争の呪縛に、未だに魂を惹かれる人達がいる。
もちろん漫画なので、公式として扱われる事は無い。あくまで一作家のパラレルワールドである。
だが、それでも凡百の物語と一線を画す、巨大な大風呂敷を見事に畳んで見せた。
SFというのは、嘘の物語である。「もしも~だったら」という架空の設定から、新たな発想や社会実験を行うものである。
そこには、異なる価値観の擦り合わせと高度な科学考証から生まれるリアリティが必要となる。
物凄く高度な創作行為である……だからこそ、皆が興奮してカタルシスを感じる事になる。
綿密に張り巡らされた伏線……生き生きと動くキャラクター達。
読者を驚かせるためだけに、ひっくり返される物語。
それらをもって、初めてSFとなるのだ。
宇宙船が出て来るから、ロボットがいるから、ナノマシンがあるからSFなのではない。
SFという名の嘘を信じさせる舞台装置が無ければ、ただの与太話に過ぎない。
これだからSFは、やめられないのだ!!