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乱入事件、勃発

「おほっ! まじで美少女ばっかりじゃん!」

「だから言ったじゃねぇか。俺の目に狂いはねぇってよ」

「わりーわりー。高校生とかガキだから、大したことねぇと思ったんだが。どいつもこいつもレベル高ぇよ。特に真ん中の二人な」


品定めするように女子たちにいやらしい視線を送る四人組の男たち。

その目は日向さんと詩川さん、二人に注がれている気がした。

なんだこいつら。誰かの知り合い……とかじゃないよな。

様子を伺っていると日向さんが男たちの前に立ちはだかる。


「何よあなたたち。いきなり入ってきて!」

「いいじゃねーかお嬢さん方よぉ。俺たちと遊んでくれねーか? あ、男どもは用がないから帰っていいぞ」

「そーそー。ここからは大人の時間だからよ」

「だな。ガキはどっか行きやがれ」

「な、何を勝手なことを……!」


必死に抗議する日向さんを、男たちはニヤニヤしながら見下ろしている。

そのうちの一人が彼女の肩に手を載せた。


「いいねー君。俺、気の強い子結構好きなんだよねー」

「ちょ……気安く触らないで! 人を呼ぶわよ!」

「呼べばいいじゃん。出来るもんならさ」

「痛ッ!?」


男が日向さんの手首を強く掴み、電話しようするのを拒む。

さっきまで気丈にしていた日向さんだったが、男の暴力に恐怖を覚えたのか膝を突いた。


「日向さん! ……お前ら、その手を離せぇっ!」


浩太が向かって行くが、


「男に用はねぇって……言ってんだろボケがぁ!」


どがっ! と激しい音がして蹴り飛ばされてしまう。

俺がなんとか受け止めるが、鳩尾にでも入ったのかゲホゲホと苦しそうにしている。


「大丈夫か!? 浩太!」

「俺の……ことより……ゲホッ! ……皆を……頼む神谷……助け……」


悶絶しながらも、浩太は皆を助けるよう俺に言う。

怖かっただろうに、自分のことを顧みずに突っ込んでいき、挙句人の心配とか……カッコいいよお前。


「へっ、女の前でカッコつけようとしてあっさり返り討ちとか、こんなダセェことはねぇよなぁ」

「おい男ども! そいつを連れてさっさとどこかへ消えやがれ!」

「尤もぉ? やるってんなら相手してやるけどなぁ?」

「俺ら一応空手の黒帯取ってるからそのつもりでな! 押忍! ……ってかぁ? ギャハハ!」


俺たちを揶揄うように、胸元で両腕を切る仕草をする。

よく見れば男たちはかなりガタイがいい。

身長もそうだが、体重も90キロ近くはあるだろうか。相当鍛えられているのがわかる。

浩太がやられたことで女子たちも一気に青ざめ、身体を小刻みに震わせていた。

そんな時立ち上がったのは、詩川さんだった。


「わ、私があなたたちに付き合います……!」

「詩川さんっ!?」

「神谷くん……私なら大丈夫ですから」


詩川さんがぎこちない笑顔で、震える声で言う。

そして男たちをキッと睨みつける。


「だ、だからこれ以上、皆に手を出さないで下さい……!」

「ヒューゥ♪ カッコいいねぇお嬢さん」

「しかも顔もめちゃめちゃカワイイじゃん。アイドル狙えるんじゃね?」


口々にそう言いながら男たちは詩川さんの肩を抱こうとする。


「っ! や、やめて下さい……っ!」

「へぇー、皆がどうなってもいいの?」

「……ッ!」


それ以上何も言えず、詩川さんは口を噤む。

髪や肩に触れられながらも目をぎゅっと閉じて耐えている。

しばしそうした後、男たちはニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「……でも俺たちも四人いるからさぁ。一人では無理でしょ。やっぱ」

「そうそう! やっぱ全員来て貰おうか!」

「そんな! 話が違――」


抗議しようとした詩川さんの表情が苦悶に歪む。

強く手首を握られたのだ。瞬間、俺の目の前が真っ赤になる。

気がつけば俺は浩太を降ろし、男の首を掴み上げていた。


「やめろ……それ以上汚い手で詩川さんに触るな……!」

「ぐあっ!? こ、こいつ……なんて力……!?」


その痛みで詩川さんが解放される。

男は暴れるが、離さない。逃さぬよう力を強めていく。

顔は赤くなり、徐々に青ざめ、他の男たちも突然の状況に困惑し動けなくなっているようだ。


「が……ぐぁ……っ!?」


白目を剥いてガクッと両手を下ろすのを確認し、俺はようやく腕に込める力を緩めた。

いくら鍛えていても喉までは鍛えようがない。もちろんこんな攻撃は容易く決まらない。

相手があまりにも隙だらけだっただけだ。

どさりと倒れ伏す仲間を見てようやく我に返ったのか、男たちの表情が怒りに歪んでいく。


「て、テメェ……! よくもエーちゃんをやりやがったな!」

「死んだぞゴラァ!」


咆哮を上げながら向かってくる男たちに、俺は身構える。

少し震えているな。やっぱり俺にとってまだ喧嘩は怖いものだ。

でも、だからどうした。

今は戦わなきゃいけない時だろう。鼓舞するように拳を強く、強く握り締める。


「くたばりやがれぇぇぇっ!」


最初の一人が俺に殴りかかってくる。

だが振り上げた拳をただ叩きつけるだけの真っ直ぐなパンチなど、モリガンの放つ遠距離攻撃にすら及ばない。

軽く身体を傾けて躱し、無防備な顔面に肘鉄を喰らわせる。


「が……っ!?」


鼻血を出して倒れ伏す男を見送りながらすぐ後ろにいた男に拳を振るう。

俺の放つ拳を、男は前屈みにして避ける。


「おおっとぉ! へっ、当たらねぇぜ……ぐばっ!?」


――だがそれはフェイント。男が逃げた場所はミドルキックの軌道上だ。

オルオンのモンスターは優秀なAIを積んでいる。この手のフェイントが機能する程に。


「この……調子に乗りやがってぇぇぇ!」


最後の一人がどすどすと地響きを上げながら向かってくる。

両手を広げ、逃さないようにするつもりだ。

他の連中より一回りは大きい。しかも全身は脂肪で覆われ、相撲取りのような体型だ。

捕まれば俺の腕力では振り解けまい。それに俺の打撃程度じゃ効果は薄いだろう。それなら――


接触の直前、俺は素早く身を屈める。


「んなっ!? ど、どこへ消えやがった!?」


腹が出ているので急に消えたように見えたのだろう。

これまたオルオンで見つけたテクニックの一つ。

大型の敵は視界が狭く、接近するとプレイヤーを見失い右往左往し始めるのだ。

その隙を狙って足払いを決める。勢いがついていた男は面白いようにあっさり転び、顔面で壁をぶち破った。


「ふぅ……」


――一息、呼吸を整えて。俺はどうにかなったかと胸を撫で下ろすのだった。


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[一言] 警察とかにビビらずやる時はやる男なのいいね
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