【第七話】阿吽の呼吸
これは愁人が善輝と合流する六分前のこと。こうこうと照らす電灯のもとで凪は二階を、海人は一階をそれぞれ担当していた。
ー凪目線ー
二階には大量の鏡の住民の『平民』レベルが徘徊していた。凪は取り敢えず鏡の住民たちの死角になる場所に隠れ、一人作戦を立てていた。
「ここにいるのはせいぜい雑魚。なら別に無鉄砲に飛び出しても大丈夫そうだな。」
そんな悠長なことを考えていたその時、
「あっ、こんな所にいた。」
背後から中年女性の姿の鏡の住民が迫ってきた。その声を聞きつけて集まる鏡の住民たち。凪はため息をつくと、
「まあ、しょうがないか」
そう呆れた様子で言うと、仮面を躊躇無く顔に付けて契約をした。そして凪が片手を上から下へ大きく振った瞬間『道標の力』が発動し、迫りくる鏡の住民を次々とコンクリート詰めの地へ叩き潰した。
凪の持つ『道標の力』の能力は、凪が上から下へと手を振り落とすことにより、重苦しい圧力を上から相手にかけるというシンプルなもの。その全貌は明かされてないが、本当は透明で見えない五百キロもの大きな地蔵を押し付けるというもの。そのため、一体の鏡の住民にしか攻撃はできないものの、強力な一撃を放つことができ、まともに喰らえば大抵の場合は木っ端微塵になってしまうというもの。
凪はその能力を使いながら次々と鏡の住民を縦横無尽に倒しつくしながら
「海人は大丈夫かな。うまくやれているのかな?」
と密かに弟の心配をしていた。
ー海人目線ー
一階には二階同様、大量の『平民』レベルの鏡の住民が徘徊していた。そんな中、海人は指をガジガジと噛みながら、
「兄さん何処?兄さん何処?兄さん何処?兄さん何処?兄さん・・・」
と、不気味に連呼し続けていた。そんな腰を抜かしているように見える滑稽な姿の海人に気づいた数体の鏡の住民たちはケラケラあざ笑いながら話していた。
「なんだあの腰抜け」
「迷子でもしているのかしら。かわいそー」
「おい、あいつよく見たら契約者だ。」
「それなら吸収できればー・・」
「それなら俺が貰うーー」
鏡の住民は一斉に海人の所まで駆けた。そして、鏡の住民たちが海人の間合いに入った瞬間。多くの鏡の住民は力強く吹き飛び、腕や足は宙を舞った。
「なんだ。こいつの間合いに入った瞬間何かに吹き飛ばされた。」
困惑する鏡の住民の姿は海人の目には入ってなかった。それどころか指を更に強く噛み、早口になりながらまた、
「兄さん何処?兄さん何処?兄さん何処?兄さん何処?兄さん・・・」
と連呼を続けた。鏡の住民の目の前にいる者はもう腰抜けでは無く、得体の知れない怪物になっていた。その途端、海人の口がプツリと止まった。そして、鏡の住民に対し、何の色の持たない目を向けると、
「そうだ。兄さんに君たちを殺せって頼まれたんだった。」
そう言って、海人は両腕を大きく前に振った。
海人の『無心の力』の能力は海人の周囲にある特殊な見えないエネルギーの塊を相手にぶつけるというもの。ぶつけられた者はさっきのように力強く吹き飛ばされ、諸に食らうと体が木っ端微塵になってしまう。双子の兄弟であるため使える能力はよく似ている。
海人が次々と腕を振ると、二十体程の鏡の住民が特殊な見えないエネルギーの塊によって粉砕した。逃げる鏡の住民、追いかける海人の姿。その場は主客転倒状態になっていた。すると、倒しそこねた十体程の鏡の住民は二階へと逃げていた。海人もすかさず追いかけると、二階には凪が三つの首を持つケルベロスのような生物の動きを必死に抑える姿があった。
「兄さん」
海人が兄への再会に有頂天になり、喜びながら叫ぶと、凪は少し切羽詰まった様子で
「海人、頼む手伝ってくれないか?」
と頼んできた。それに対し、海人はケルベロスのような鏡の住民に対し、
「兄さんそれって鏡の住民なの?」
「ああ、人型でないのは初めて見た。」
そんなやり取りをしていると、海人が追いかけていた鏡の住民たちがケルベロスのような鏡の住民のもとへと集まっていた。と、思った途端に次から次へとケルベロスのような鏡の住民に頭から食われに行っていた。みるみる内に大きくなるケルベロスのような鏡の住民の姿。それに対し、凪と海人は顔を見合わせ、一つ頷き合うと、凪は『道標の力』を解除した。呪縛から解かれ、猪突猛進状態で突っ込んで来るケルベロスのような鏡の住民。凪は上に片手を上げ、海人は下に片手を下げた。そして、凪は力強く上げた腕を振り下ろし、海人は逆に力強く下げた腕を振り上げた。そして、それらがちょうど中央あたりで破裂音を鳴らすと、二人はオリジナルの技名を同時に叫んだ。
「零ノ理」
それと同時にケルベロスのような鏡の住民は『無心の力』により下からエネルギーにより宙に浮かばせられて、『道標の力』により、上から押しつぶされた。その結果、ケルベロスのような鏡の住民の可動域はどんどんと減らされていき、苦しみ、もがきながらも最終的には可動域を完全に失わされ、時空の狭間へと消えさった。
「やったー」
二人はお互いをたたえ合いながらハイタッチをすると、共に二人の契約は解除された。
続