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ミラー∞スペクルム  作者: 画竜転生
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【第六話】決意のピストル

立体駐車場は一階あたり車を百台以上ずつ停められる程の広々とした場所だった。屋上は照明が無く、月明かりも入らないため深淵の闇に包まれていたが、それ以外の階層はこうこうと虫が寄りつく古びた照明がついていた。


ー愁人目線ー


愁人は三階の相手と闘争することになった。三階には四つ目の顔をしたうす気味の悪い、七十代ぐらいの猫背で後ろに手を組んでいる高齢女性の鏡の住民がいた。すると突然、その鏡の住民がのっそりとした落ち着いた声で


「おやおや、若いお兄ちゃんがお相手ですか?」


と飴でもくれそうな悠長な振る舞いを見せてきた。その喋り方は今から殺し合うとは到底、思えないものだった。だが、愁人は口を利くこと無く、ためらわずに引き金を引いた。すると、鏡の住民は後ろに吹き飛ばされると共に胴体と顔が二つに泣き別れ状態になって倒れた。たとえ恨みのある鏡の住民を撃ったとは言え、人間の姿。見るに堪えない姿に愁人は目を反らし、その場をあとにしようとした。その時、


「そんなに急いでいると転んでしまいますよ」

「そんなに急いでいると転んでしまいますよ」


聞き覚えのある落ち着いた声が耳をくすぐった。反射的に振り返るとそこにはさっき倒したはずの鏡の住民が二体に増えていたのだ。


「火力が足りなかったのか?」


自問自答の末、今度は体が木っ端微塵になるまで銃声を起こした。散らばる肉片と周囲一体の血の海。


「流石にやっ・・・」


愁人は思わず言葉を失った。なぜなら、散らばった肉片からそれぞれ頭、体、腕、足と見る見る内に生えてくきていたからだ。


「何がそう、君を怒らせるのですか?」

         ・

         ・

「何がそう、君を怒らせるのですか?」


木っ端微塵にした影響で二十体以上にも増えた鏡の住民は全員同じことを言っていた。愁人は多少のパニック状態に陥った。そして、ゆっくりと近づいて来る増えた鏡の住民に対し、距離をとるために愁人は壁際へと駆けた。


「落ち着いた方が気持ちは楽ですよ」

         ・

         ・

「落ち着いた方が気持ちは楽ですよ」


集中して考えるために自分の頭をつんつんと叩く愁人。だが、耳障りな程重なる鏡の住民の声は集中をそげさせた。


「何処かに本体がいるのか?マシンガン、ロケットランチャー、ミニガン、ダメだ。この流れでいくとどれも事態をもっと悪化させてしまいそうだ。」


兵器たちとにらめっこをする愁人。その時、愁人はこの鏡の住民の企みに気づいた。それは、


「やつの目的は多分、僕が攻撃できなくなるタイミングを狙っている。例えば弾切れ、でもそれは『破壊の力』には球切れが無いから大丈夫だ。次に精神の崩壊。これはあり得べかざることだ。このままの戦況がずっと続くのであればいずれ僕自身が壊れてしまう可能性が大いに有り得る。最後に契約。相手は使える時間を知らないと思うが、制限時間があるということは知っている。さらに不幸にも僕の契約時間は他の誰よりも短い八分。早く相手の手札を知らないともう取り返しがつかないことになる。


相手は『富豪』レベルのため、正面的な戦いならまず負けることは無いだろう。だが、こういう風な変則的な戦いなら下手すれば負ける。」


すると、二十体以上の鏡の住民がもうそばまで来ていた。愁人は一旦もう一度逃げ道を確保するためにマシンガンを構えた。だがそれと同時に皮肉な現実が頭をよぎった。


「もし、ここで撃ったら一旦は逃げられるかもしれない。でも、それでは戦況としては依然として何も変わらない。それどころか返ってこっちが不利になる。」


そんなことを考えていると、一体の鏡の住民が愁人の腕に触れた。


「クソ、考えていて周りが見えなくなっていた。」


そう歯を食いしばり驚くと、腕から生えていたピストルの銃口を相手の脳天に当てて撃ってしまった。それと同時に、愁人の頬には弾けるように飛んだ真っ赤な返り血がついた。その時、愁人はその返り血に違和感を覚えた。なぜなら、その返り血は愁人の肌に触れた瞬間、口に入れた綿あめのようにスッと消えたのだ。愁人は事態を整理する時間を求め、後先考えず周囲の鏡の住民を一掃した。そして、増える鏡の住民から逃げながら考える。


「なぜ返り血が消えた?でも、ここに広がった血の海は・・っ、血が消えている。」


愁人は思わず血の気が引く感覚を感じた。少し前まで当たり前にあった血の海が消えていた。そして愁人はその驚きをきっかけに一つの仮説へとたどり着いた。


「やつの能力は『時間ループ』。優しい言葉を投げかけた後に僕に殺される。という運命という形でルーティン化させ、それを永遠に繰り返させる力・・僕はいつの間にかやつの能力に侵されていた?今こう気づけたのは返り血によってほんの少しだけ運命が変わったから。」


愁人は兵器を再度構え、一度形勢を変えるために周囲の鏡の住民を蹴散らすと、


「運命を変えるには、ほんの少しの変化では何も変わらない。数ある可能性から意表をつかせる必要がある。それなら、この方法しかない。」


愁人は自分に生えたピストルの銃口を自分の脳天へと当てた。この時の愁人には死への恐怖はなかった。なぜならこの時の愁人の頭の中には善輝に言われたある言葉を思い出していたからだ。


「愁人。お前は本当に凄いやつだよ。自分の求める未来のためなら手段を選ばずに何でもやってのけてしまう。それも一種のお前なのかもな。」


驚く鏡の住民たちに対し、愁人は満面の笑みを浮かべながらキメ顔で


「ボンボヤージュ」


と、言い残し引き金を引いた。


愁人はブヨブヨとした緑色のスライムのような膜の中で目を覚ました。その外では目を光らせて、愁人に催眠をかけていた四つ目の顔をした七十代ぐらいのおばあちゃんの鏡の住民が目を丸くしている様子があった。愁人は鏡の住民の逃げる隙きを与える前に今度は緑色のスライムのような膜の中から鏡の住民の脳天を目掛けてピストルの引き金を引いた。


打たれた鏡の住民はあっけなく灰のように風に吹かれながら消えた。それと同時に緑色のスライムのような膜は水風船のように激しく儚く割れた。愁人は深くため息をつくと、迷わず善輝のいる屋上へと向かった。


愁人が階段を登り、あと一歩で屋上の様子が見えるという所まで来た時、不穏な予感が愁人の横を通り過ぎた。だが、愁人はすかさず首を強く振り、屋上へと上がった。でも、そこには愁人の感じた不穏な予感があった。張り詰めた緊迫感の中、片膝を地につけて血反吐を吐きながら交戦する姿の善輝がそこに居た。善輝は全身負傷状態、夫楼々は善輝の戦いを泣きながら見ていた。善輝は困惑する愁人に気づくと、力一杯叫んだ。


「逃げろ。ケイは倒せない。あまりにもこちらに分が悪すぎる。」


愁人は絶望で頭が真っ白になり、その場で立ち尽くした。


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