【第五話】新月の戦
夜露が勢いよく落ちた不穏な早朝。善輝は音楽室にみんなを集めると、昨日の深夜のことについて一心不乱に話した。
「ーーってことで、誰か一緒に来てくれないか?」
すると、予想以上の数で六人の手が同時に上がると、遅れてもう一人も追加で手が上げられた。そして、善輝は感謝と驚きで一杯になりながらも、頭を抱えながら厳選した三人を発表した。
「愁人、凪、海人、一緒に来てくれないか?」
その時、善輝が周りを見渡すと、予想はしていたが他に手を上げてくれた四人の肩があきらかに落ちていることに気づいた。
そして夜十一時過ぎ、昨日の鏡の住民の言葉通り、新月により月明かりの入らない静かな漆黒のベールに包まれた街へと四人は訪れた。そして、約束通り立体駐車場の屋上へと向かった。立体駐車場は不自然にも屋上以外は全ての照明がこうこうと輝いていたが、屋上だけには周囲を最低限照らすだけの十本のロウソクしかなく、非常に薄暗いものだった。屋上には『核となる鏡』になっている大型のワゴン車とその付近で拘束されてる夫楼々の姿、そして昨日の大男の鏡の住民はロウソクの灯火に照らされながら鮮やかな刀身を見せる日本刀を持って立っていた。善輝は顔に血管を浮き出しにしながら、鋭い視線を送り、怒りを乗せて口を開いた。
「約束は守ったぞ」
「はい、見れば分かります。ではまずは自己紹介。私のことはケイと呼んで下さい。次にルール説明をしましょう。まず、夫楼々という人間にゲーム開始十分後に起爆する爆弾をしかけました。そしてその解除方法は、私と私の部下を全員倒すことです。この立体駐車場は屋上を含め四階建てとなっております。一階ずつに私の部下たちがいます。それらを下から上がって倒していき、屋上にいる私にたどり着いて下さい。シンプルなルールでしょう。」
「質問だ。一人一階層を担当して、後に上での合流でもいいのか?」
ケイの言葉に怯むことも驚くこともなく、善輝はケイに対し質問した。
「別に構いませんが、一人残らず倒さなければ爆弾は解除できませんよ。一人一階層で漏れを作らずに倒しきれるでしょうか?」
善輝は他の三人の顔を見て、一つ頷いてから返答した。
「悪いが僕のファミリーを見くびらないでもらえるかな。大丈夫、何一つ問題ない。早く始めよう。」
「せっかちは好きじゃありませんがそれもそうですね。ではスタート」
ケイの掛け声の後、善輝が小指以外の四本指を立てる合図をすると、善輝以外の三人は後ろ向きで屋上から飛び降りた。
「あら、本当に一人一階層でやるつもりなんですね。」
「よく忠告してくれるんだね。でもまっ、本当にお前みたいなゲス野郎には負ける気がしないんだよね。」
また善輝の顔には血管が浮き出ていた。
善輝はここに来る前、愁人たちのことについて考えていた。
渡辺愁人、年は二十歳の大学生。彼は『破壊の力』を持っている。鏡の住民への怒りは誰よりも大きい。そのため、たまに手がつけられなくなることがある。だが、ファミリーへの情は厚く、善輝からは高い信頼を得ている。
雪月凪、年は十七歳の高校生。彼は『道標の力』を持っている。雪月兄弟の双子の兄。少々生意気な所はあるが、弟の海人思いないい兄。特にこれといった変わった性格はないが、唯一無口な海人が心を許している人物である。
雪月海人、年は十七歳の高校生。彼は『無心の力』を持っている。雪月兄弟の双子の弟。とにかく、兄の凪以外には無口で感情の無い壊れた人形のような人物。自分の意見や心情が無く、凪からのご都合主義で生きているため、今回遅れて参加すると手を上げた人物で、兄の凪が行くから行くという考えしか無い。海人には言えないが、双子とは思えない程二人は似ていない。が、そこには切っても切れない本物の絆がある。
善輝は心を落ち着かせ、深く息を吐いた。その時、善輝の周りに無数の光の玉が善輝を囲むように集まってきた。あまりにも突然すぎることに警戒をするケイに対し、善輝は見下すように説明した。
「僕は君に手札を公開するよ。僕の能力は『継承の力』。内容は今まで死んでいったファミリーの魂やその他様々な人々の想いを直接的に力へと変えられるという能力だ。」
そう言いながら善輝は周りの光の玉を全て胸の中に入れた。その瞬間、善輝はケイの持つ日本刀とよく似た形状のシンプルで艶やかな刀身を見せる日本刀を音も僅かな風の揺れも作らずに右手に出した。するとケイは突然、ケラケラ笑いながら言った。
「死んだ仲間の力?笑わせないで下さいよ。過去は過去の存在。敗北者の力で勝とうなんて舐められたものですね。だが、私もいいことを教えてあげます。私は人間を五十二人と契約者を二人吸収しています。」
そう自慢げに言い終わった瞬間のことだった。周囲にあったロウソクの灯火が全て儚く消えると共にケイの姿が瞬きする間に見えなくなった。それは拘束されていた夫楼々も善輝も見失う程の速さだった。善輝は刀を構え、戦いの火蓋が切って落とされたことを悟った。
続