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ミラー∞スペクルム  作者: 画竜転生
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【第四話】お墓参り

「夫楼々君の祝杯にカンパーイ」


「カンパーイ」


長テーブルに並べられた、ごちそうの数々を前に十七人の大家族はプラスチック製のコップを当て会った。乾杯が終わると、友樹は運営側に回りご飯をよそったり、皿を片付けたりと、せっせと働いていた。夫楼々が目の前の大皿に盛られたレトルトカレーを取ろうとすると、初めて来た時には見かけなかった、車椅子に乗る大人しそうな女子高校生とそれを押す天真爛漫そうな女子高校生が近づいて来た。すると、夫楼々の隣に居た善輝に対し聞いた。


「今日は気前がいいなって思ったら、いつの間に一人増えたんだ。」


「お前たちが散歩中にな。西崎夫楼々君・・いや、ファミリーだから君付けはおかしいか」


すると、今度は夫楼々の方を向いて手を握り締めながら、飛び跳ねるような声で挨拶して来た。


「はじめまして~私の名前は石田友美いしだともみそしてこっちの車椅子の子は佐藤霞さとうかすみシクヨロ〜」


「よろしく」


夫楼々は温度差の違いに引きつったような笑顔で苦笑いをしながら答えると、


「ねえ、見てみてこれ可愛いでしょーー」


そう言って、友美は学生鞄の中身を見せてきた。夫楼々は言われるがまま覗き込んだ。だが、それは想像を絶するものだった。学生鞄の中には大量の子猫の生首や子犬の生首やウサギの生首といった小動物の生首がゴロゴロと入っていた。夫楼々は驚愕のあまり、その場で食べていた物を嘔吐しかけた。すると、霞が友美をフォローするような離れさせるように


「うわー可愛いね。また増えた?可愛さのあまり夫楼々さん目丸くしちゃっているよ。取り敢えずあっちの棚の方に置いてきなよ。」


すると、友美は有頂天になりながら棚へと向かって行った。霞は友美の背中を確認すると、夫楼々の方に向き返し、一度頭を下げながら説明してくれた。


「突然驚かせてしまってごめんなさい。あの子ちょっと変わっているの。」


「友美・・」


「呼び付けでもいいけどちゃん付けだと喜ぶよ。」


「んじゃあ、友美ちゃんはあれが何に見えているんですか?」


「それはわからないけど、幻覚が見えていたりとか現実逃避しているとかとはちょっと違うかな。『ミラーエンドの日』あの日からあの子、凄く変わっちゃったの。自分よりも小さい生き物に無償なまでの傲慢さを見せたり、真逆に可愛がるようになったの。例えば、恵里香ちゃんに対する態度の変化は凄い。いつも、凄く可愛がったりするんだけど、何か気に食わないことがあると突然、悪魔が取り憑いたかのように変貌して暴力をふるうようになるの。今伸びた前髪で見にくいけど、恵里香ちゃんの頭には大きな切り傷があるの。それは、あの子が包丁で恵里香ちゃんの頭を切ったからなの。それからは、私がわがまま言って外に散歩するって形で距離を置かせるようにしているの。」


そんなことを話していると、何も知らない友美がすとすとと戻って来た。夫楼々はよそよそしくしていると、何も知らない友美は


「何の話してたの?」


「ああ、チョコ(犬の名前)とマカロン(犬の名前)可愛いねって話・・・」


そう偽りの話をしながらどこかへ去って行った。


夫楼々の歓迎会は時間の流れを忘れてしまう程盛り上がった。しばらくして料理に色が無くなると、善輝は楊枝を口に入れながら空元気で言ってきた。


「夫楼々、シャワー浴びてきなよ。」


「え、シャワールームあるんですか?」


「あるよ。二階の図書室の隣だ。この高校の設備はすごくよく整っているんだ。雨水を貯水するための貯水槽、自家用発電できる非常用発電機に屋上を一面に置かれたソーラーパネル。元々県の避難所になる所だったからね」


「すごいですね」


「まあ今日はいろいろあってもうヘトヘトだろ。遠慮しないで休んできなよ。」


「ありがとうございます」


頭を下げてお礼を言うと、夫楼々はウキウキしながらシャワールームへと向かった。


サビのないきれいなノズルを捻り、透き通った水のシャワーを顔に当てていると、夫楼々は事故にあった時のことを思い出した。



二月八日正午。

今日は蒼穹に恵まれた少し早いが春の音が聞こえてくる日だった。僕は、友達との待ち合わせ場所に行くために通らざるを得なかった古びた待ち時間の長い信号機で待ちながらメールをしていた。その信号にはスーツが似合う会社員二人と視力障害を患っている優しそうなおばあちゃんがいた。


メール内


「もうすぐ着くよ。今、コンビニ前で信号待ち中」


「遅いぞー。もう二人来ちゃってて、先行こうかって話して居たところ」


「夫楼々、飯おごるの確定ww」


そんな当たり前のメールを見ていた時だった。


「カッコーカッコー」


っとケラケラと笑いながら、信号機で年中聞く鳥の鳴き声を真似する意気衝天な中学生の集団が後ろに来た。その時、僕は最悪の事態を悟った。反射的に横を見ると、その最悪は目の前にあった。視力障害を患っているおばあちゃんが一歩一歩杖で道路を叩きながら歩いていたのだ。他の誰も気づかない。助けられるのは自分だけなんだと勘が言った。僕は交差点の真ん中あたりに行きそうな所でおばあちゃんを呼び止めた。何も知らず振り返るおばあちゃん。その時一台の六トントラックがスピードを上げて青信号を通ろうとしていた。スピードは落ちない、何も気づかないおばあちゃん、僕の体は自然と動きおばあちゃんを突き飛ばしたーーーーー


夫楼々は我に帰り、首を大きく振り、深くため息をつくと、


「はあー、疲れているな」


そう自分に言い聞かせると、今日はもう着替えて寝かせてもらうことにした。


音楽室隣の大ホールには大量の布団が敷いてあり、友樹はここでも一人率先して準備をしてくれていた。そして疲れ切った夫楼々に気づくと優しい眼を送ってくれながら、母親のような温もりある声で


「もう寝ますか?」


と、聞いてくれた。夫楼々はその言葉に甘えてコクリと頷くと、一人早く隅っこで寝かせてくれた。


すとすとすとすとと微かに鳴り響く足音に夫楼々は目を覚ました。周囲を見渡すと、一つの布団を除いて全ての布団に眠っている人が入っていた。夫楼々は、その音が気になりみんなを起こさないように静かに音のする方へ向かった。その音の元は善輝だった。善輝は深夜怪しげにキョロキョロとしながら外に出て行った。夫楼々はそれが気になり、息を殺して追跡した。


学校から出ると、裏の方へと回り、昇降口を抜けた。どこまで行くのか。夫楼々は無我夢中に追いかけると、善輝は手を左右に振りながら草木が生い茂る草むらへとズカズカ入って行った。それに対し、夫楼々は草木を揺さぶらないようにさっきよりもスピードを落として慎重に入っていった。そして、ついに草むらを抜けたと思った先には無数に並べられた木造の十字架型のお墓があった。墓の前でしゃがみ込みながら、手を合わせる善輝の後ろ姿。すると、善輝はそのままの姿勢で


「ずっと気づいているから出てきなよ」


と、夫楼々に対し、落ち着いた様子で言った。夫楼々は予想外のことに驚きながらも頭に手を当て素直に出てきた。すると善輝は頭をポリポリとかきながら


「ごめんね起こしちゃったかな」


と、謝ってきた。それに対して夫楼々の方も


「いえ、僕こそごめんなさい盗み見てしまって・・ちなみにこの無数のお墓って何なんですか?」


夫楼々が恐る恐る聞くと、善輝は憂鬱そうに答えてくれた。


「これは、君が来る前の三ヶ月もの間で戦死した僕のファミリーの物だよ。」


「こんなに多くの犠牲者が出るなんて・・・」


「ああ。でも、僕はここにいるみんなのおかげで生きられている。あいつらのための凄く大事な場所なんだよ。」


夫楼々は改めてお墓を見た時、強い重さを肌で感じた。夫楼々は一つ深呼吸し、心を落ち着かせてから満を持して聞いた。


「あの、ミラーエンドの日のことについてもっと詳しく聞かせてくれませんか?愁人君を見ている感じ、落ち着いた優しい姿が本来の彼の姿なんだと思うんです。それなのに破壊の力を手にしてしまう程恨ませた、その出来事について知りたいんです。」


善輝は腕を組んだが、すぐに頷きが返ってきた。


「あれは、当たり前の日々を・・・」


突然話が止まると、善輝は冷たい手で夫楼々の手を突然握り締めた。


「僕から離れないで」


夫楼々に対し優しい声でかけた後、声質は豹変し、何も見えない闇の中に向かって怒鳴るように言った。


「誰だ?この隠蔽能力かなりの手練だな。」


すると、茂みの闇の中から背丈が二メートル以上あるスタイルのいい、黒いスーツを着こなした大男の鏡の住民が何の前触れも無く現れた。そして、見下ろしながら執事のような不気味な尊敬をもった言葉使いで話しかけてきた。


「いやはや、これで気づくとは流石『人類の希望となる男』だと呼ばれるまでのことはありますね。」


「何のようだ。僕は今君たちとは戦いたい気分じゃないのだが、」


「それはそれは好都合。私共も同じ気持ちでございます。お初にお目にかかれて光栄です。今回、私がここに来たのは他でもない。ゲームを申込みにきたからです。」


「ゲーム?笑わせるな。今までろくなのがなかった。招かれざる客は帰ってくれ。下らないことにファミリーを巻き込まないでくれ。」


「そうですか。では、これならどうですか?」


その瞬間、瞬きする間に夫楼々の体は鏡の住民の腕の中にあった。


「返せ、僕のファミリーを」


善輝の顔に血管が浮き出しになった。それに対し、鏡の住民はゆうゆうと説明を始めた。


「では、説明します。明日、新月の晩に、隣街の青空ビルの立体駐車場の屋上にあなたとあなたが指定する契約者を合計で四名連れて来て下さい。そこでこの人間をかけたゲームをします。もし、四人以上が来た場合はその時点でこの人間を吸収します。」


「お前がその前に夫楼々を吸収しない保証は?」


「『この世の神』に誓います」


「いいだろう」


迷うこと無く答えると、善輝は夫楼々の方を向くと、


「夫楼々聞こえるか?安心しろ。ほんの一日のホームステイだ。すぐに迎えに行ってやる。だから信じて待っていてくれ。」


夫楼々は不安でどうにかなってしまいそうだったが、善輝のいつも通りのウィンクサインにはどこか任せられるものがあった。


「では、しばし失礼」


そう言うと鏡の住民は風と共にまた闇の中へと消えていった。


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