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19話 突然の解放宣言


 約束の期間が折り返しを迎えて、私は焦る気持ちを抑えて解呪を進めていた。

 幸いにもミリアムがしっかりと仕事をしてくれているので、解呪に専念できている。ノーマンとも気が合うらしく、フィオナも一生懸命手伝っていると聞いた。

 本格的に腰を据えて、いざこれからという時だった。


「セシル、ひと月後に解放する。皇后は辞めていい」

「え?」


 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。


 いつものように膝枕をして、いざ解呪をはじめたところだ。

 契約期間はまだ五カ月以上は残っている。解除だってやっと糸口を見つけたところだし、なによりも約束が違う。


「どうした? 嬉しくないのか?」


 レイが不思議そうな顔で、仮面の奥から深い海のような瞳をのぞかせる。


「え、いえ、違うの。突然すぎてビックリしただけよ」

「そうか? まあ、いい。解呪は終わっていなくても問題ない」


 つまりそれは、私以外に仮面に触れられる人が現れて、用済みになったってことだろうか。ぼんやりとした頭でそんな風に考えていた。


「それなら、もう解呪しなくてもいいの?」

「そこはセシルに任せる。解呪できるなら、それはそれでありがたい」

「ちゃんと……やるわよ。適当なことしたくないし」

「では頼む」


 そうだった。すっかり忘れていたけど、私は必要とされるような存在じゃないんだ。今までリリス師匠に甘やかされて、レイだって夫婦として仲のいいふりしているうちに、勘違いしてしまったようだ。


 実際、仲のいいふりはしているけど、愛を囁かれたことはない。

 そうなのだ、レイは今まで一度だって私に好意を伝えていないのだ。そんな気持ちなんて最初からなかったのだから当然だ。


 なのに、なぜこんなにも心が沈んでいくんだろう?

 最初からわかっていたことなのに。私がここに来たのは解呪をするか、後継者を産むためだ。どちらも必要ないなら、用済みじゃないか。


 レイはいつものように目を閉じて、穏やかな顔で眠っている。

 渦巻く感情に蓋をして、この寝顔を見るのはあと何回だろうとひっそり思った。




 翌日、私はミリアムにお茶の時間になったら私室に来てもらうようお願いした。時間通りにやってきたミリアムとフィオナにお茶とお菓子を出す。

 フィオナは以前と同じように、キラキラした瞳で真剣にお菓子を吟味していた。


「今日は時間を作ってくれてありがとう。実はね、私一カ月後にここから出ていくことになったの」

「えっ! セシル、それは本当なの!?」

「ええ、この前レイから言われたから、間違いないわ」

「どうしてそんな急に……」


 私はニコッと笑って事実を話す。まだ契約が有効だから、すべては話せないけどちゃんとお別れがしたかったし、伝えたいこともあった。


「さあ? 私は細かいことはよくわからないし、興味もないのよね。まあ、前の生活に戻るだけだし、どうってことないわ」

「でも、あんなに陛下の寵愛を受けていたのに……!」


 どんな場所でも仲のいいふりをしていたけど、それはあくまでも演技だから。レイは別に私のことなんて、なんとも思っていない。ますます沈んでいく心を、なんとか押し込めて話題を切り替えた。本題はこちらなのだ。


「あ、でもミリアムは皇城の専属薬師として働ける様にしたから安心してね。あの丸薬を作れるのは、ここではミリアムだけだから冷遇されることもないと思う」

「セシル、ありがとう……罪を犯した私にここまでよくしてくれて……」

「なに言ってるの、もう罪は償ったでしょ。でも、こう考えると魔女って食いっぱぐれがなくて最高だわ」


 そう言ってふたりで笑った。


「ねえ、セシルお姉ちゃんはここからいなくなっちゃうの?」


 フィオナがお菓子を飲み込んで、声をかけてきた。


「ええ、そうよ。ひと月後にはさようならね」

「それなら、わたしを弟子にして!」


 フィオナの言葉に私もミリアムも驚いた。私の弟子というのは、つまり魔女になりたいということだろうか? 確かにフィオナは闇属性の魔力を持っているから、できない話ではない。


「フィオナ、それはどういう意味かしら?」

「わたし、魔女になりたい」

「ミリアムはここに残れるようにしたから、私についてきたらママと離れることになるのよ?」

「わかってるよ。でも魔女になって今度はわたしがママを守る」


 その決意はわずか十歳の少女だからと無視できないほど、強くまっすぐだった。フィオナが魔女になった先のことを考える。フィオナが魔女になれば、私が新しい解呪の方法を教えられる。


 そうしたら、闇の魔力に取り込まれる心配なく解呪ができる。修行期間を成人までに設定すれば、独り立ちも支援できるだろう。


「ミリアムはいいの?」

「ふふ、フィオナは私に似て頑固だから、こうなったら母親の話も聞かないわ。週に一度会えるのならセシルにお願いしたいけど大丈夫かしら?」


 ——私はもうできないから。


 そんなミリアムの声が聞こえた気がした。私がミリアムの魔女の力を封印したのだから、答えは決まっている。


「もちろん大丈夫よ。私が責任持って一人前の魔女に育て上げるわ」


 そうしてすぐにでも魔女になるための洗礼の儀式を受けるというので、仕事が終わったらまた私室に来てもらうことにした。




 レイには一カ月後に出ていくので、なにも話さないことにした。これから先のことを、レイと話す気にはどうしてもならなかったのだ。

 そして月が東の山から顔を現した頃、ミリアムとフィオナが私のもとへとやってきた。


「フィオナ、準備はできてる?」

「うん、大丈夫」

「魔女になったら、もとに戻れないけど本当に後悔しない?」

「うん、絶対に後悔なんてしない」

「わかったわ。じゃあ、始めるわね」


 最後の確認を済ませて、フィオナの額にそっと手をかざす。


 私が魔女になった時はリリス師匠に洗礼を受けた。あの時のことを思い出す。絶望に染まっていたけど、魔女になってからは毎日必死で、それでも楽しくて。優しさに触れて立ち直った。


 どうかフィオナの未来も明るいものでありますように、そう願いを込める。


【星は流れて天を巡り、運命(さだめ)のもとに集い願う。汝に眠る呪われた血に今目覚めよ。解放(リベラ)


 手のひらから魔力を流し込めば、呪文によって発動した魔女の力がフィオナの未成熟な身体を駆け巡る。弾かれたように後ろへと倒れていったのを、ミリアムが受け止めた。


「セシル、わがままを聞いてくれて、ありがとう」

「なに言ってるのよ。修行はこれからよ」

「そうね。ビシバシ鍛えてちょうだい」

「じゃあ、まずは目が覚めたら私のことを『セシル師匠』って呼ばせるからね」

「ふふ、私が教えておくわ」


 そう言ってフィオナをミリアムたちが住む部屋まで運んだ。この城にいる間はミリアムと寝起きしてもらうけど、私が城を出るときには一緒に新しい家に引っ越すのだ。


「ゆっくり休ませて、しっかり開花できたら、私室へ寄越してね」

「セシル……フィオナをお願いします」


 ミリアムは深く頭を下げた。私は「任せて」とだけ返事をして、部屋に戻ったのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます♪︎♪︎(*´▽︎`*)

完結まで書き上がりましたので、ペースを上げて今日も複数話投稿します★

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