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1話 プロローグ


 絢爛豪華な皇帝の謁見室で、私は窮地に立たされていた。


 数段高い位置に、ひと際背の高い重厚な造りの椅子が置かれ、長い足を優雅に組んだ仮面の男が私を見下ろしている。その男の凛とした低めの声が響き渡った。


「いいか、よく聞け。この仮面のせいで皇后候補にはことごとく逃げられた。俺に近寄ってくるのは邪念がある者だけらしい。つまり女など信じられないということだ」


 目の前の男は、このディカルト帝国の皇帝だ。

 偉そうに玉座にかけている男の顔には、鼻から上を覆う仮面がつけられていて表情が読みにくい。でもそんな言いがかりに近い物言いに屈する気はない。


「そうね、でもそれは立場的に仕方ないんじゃないかしら?」


 だってそんな人しか寄ってこないのは、私のせいではないもの。


「立場的なものは理解している。邪念を持っていたところで俺がうまくコントロールしていれば済む話だ」

「…………そうね」

「だが、そんな女ですら伴侶にできないと後継者問題が出てくる」


 確かに、帝国の皇帝ともなれば後継者は必須で避けて通れない問題だ。しかもこの皇帝は即位する際に一族を皆殺しにしたと聞くから、現状のままだと目の前の男で皇族の血は途絶えることになる。

 ちなみにその時の出来事がきっかけで悪魔皇帝と巷では呼ばれていた。


「俺は皇帝になる時に直系の一族は根絶やしにしたからな。養子を取ることもできない。だが無駄な争いを避けるためにも後継者は必要だ」

「それは、理解できるわ」


 周りを黙らせるためにも皇帝の血を引く後継者は必要不可欠だ。

 後継者ができないと言ってるけど、そもそも一族を根絶やしにしたからでは……と思ってしまう。でも悪魔皇帝の眼光が鋭すぎて、心内にそっと秘めておいた。


「それならお前が呪いの仮面の製造者として責任を取れ」


 そうなのだ、皇帝陛下のご尊顔についている呪いの仮面は、こともあろうか魔女である私が作ったものなのだ。しかも邪念を持つ者が触れたら痛みでのたうち回るという仕様にしてある。だから皇帝に触れることすら叶わなかったのだろう。

 むしろ自分のこんな数奇な運命を呪ってやりたいくらいだ。


「せ、責任って……まさか命をもって償えなんて言わないわよね?」


 恐る恐る聞いてみる。もし首を刎ねるとか牢屋に入れるとか、物騒なことを言われたら死の物狂いで逃げ出さないといけない。腕輪さえ外してしまえばどうにでもなる。……外せればだけど。



「違う。俺には後継者が必要だと言ったろう。だからお前が妻になって俺の子を産んでくれ」

「————————はい?」



 すっかり逃げる算段を立てていたので、予想外の話に疑問で返した。目の前にいる悪魔皇帝はなんと言った?

 責任取って、妻になって子を産めと言った? 誰が? 誰の?


「よし、了承したな。イリアス、婚姻宣誓書の準備をしろ」

「承知しました。ではこちらに陛下のサインをお願いいたします」

「ああ」


 サラサラと迷いなくペンを走らせる悪魔皇帝が、ものの三秒ほどでサインを終える。イリアスと呼ばれた側近と思われる若い男が、悪魔皇帝から分厚い羊皮紙を受け取り爽やかな笑顔で目の前にやって来た。


「ちょっと待ってよ! 今のは了承じゃなくて、疑問の——」

「どうぞ、サインをお願いいたします」


 問答無用で婚姻宣誓書と書かれた羊皮紙を私に押し付けてくる。その笑顔の圧が凄くて、思わず受け取ってしまった。いくら魔女だといっても自分からなにかを主張するタイプではない私には、この空気に逆らうのは難しい。


 ふと周りに目を向ければ、この部屋にいる五人の重鎮たちも固唾を飲んで見守っていた。


 悪魔皇帝はさっさとサインしろとばかりに私を睨みつけているし、目の前の側近はニコニコしたまま無言の圧力をかけ続けてる。魔力封じの腕輪はしっかりと手首にぶら下がっていて外れないし、いつの間にか背後に回った騎士団長が退路を塞いでいる。


「心配するな。お前に愛を求めないが、ちゃんと可愛いがってやる」


 いやいやいや! 可愛いがらなくていいから、ここから帰してくださいっての!!

 ただの魔女に悪魔皇帝の子を産めとか、なにアホなこと言ってんの!? 頭沸いてるんじゃないの!?

 本当にどうしてこんなことになったのか、全然、まったく意味わかんないわ——!!



 もしも私の人生が大きく変わってしまったというなら、それは三年前の婚約破棄にさかのぼる。



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