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第62話 ”悪魔”信仰



『―――”悪魔”信仰?』




 旧帝国の王宮の王座に(小さくなって半ば無理矢理)座っているリュフトヒェンは、シャルロッテの言葉に強く反応した。


 竜である彼にとっても、悪魔とはこの世界の外から降臨する侵略者であって相容れない存在だと本能で知っている。




「ええ、元帝国穏健派の間で悪魔信仰が流行しているらしいわね。


 信じる物を失った彼らの心の中に、甘美な悪魔信仰がすっと入り込んで彼らに悪影響を与えているみたい。


 おまけにそれだけじゃなくて、麻薬もバラまいていたり、中毒者も増えているらしいわね。内定を進めてるけど、さっさと排除すべきだわ。」




 魔術師にとっても悪魔は最も警戒すべき存在であり、恐るべき存在として知られている。悪魔の契約で力を得て、魂を奪われた魔術師は数多い。しかも、純粋な魔の純度のせいで、純粋な魔である彼らには、魔術師は対抗は難しい。


 魔とは制御する物であって、乗っ取られる物ではない。最新の注意を払えと言われていてもそうなのである。賢明な魔術師ならば、悪魔に近寄ろうとはしない。




 ただでさえ厄ネタの悪魔信仰に加え、麻薬まで浸透しつつあると聞いて、リュフトヒェンの額の皺はさらに深くなる。


 アヘン戦争を見てもわかるように、麻薬は国をあっという間に腐敗させる毒そのものである。せっかく何だかんだでうまくいくようになりつつあるこの国をボロボロにするわけにはいかない。




「で、どうするの?まさか悪魔信仰を黙視するとか言わないわよね。」




『まさか、麻薬も悪魔信仰もウチの国では明確に禁止にします。というより、徹底的に弾圧しても文句なんて言わへんやろ。』




 早速リュフトヒェンは新生衛兵隊たちやセレスティーナ、シャルロッテたちに命じて、悪魔信仰も麻薬も捜査して根こそぎ狩りつくすように指示を出す。


 そして、徹底的に根っこまで刈り取った後で、空いたポストには、こちらに従順的で、読み書きのできる貴族や法衣貴族の次男、三男などを登用する。


 家ごと汚染されていた場合は……。まあ切り捨てるしかあるない。




 ともあれ、これは潜在的な反乱分子を壊滅に追いやれるいい機会になる。


 元穏健派でも、全うな方はそれでも現状に適応できるように努力している。


 だが、ダメな方は「旧帝国の頃は良かった。こんな竜なんぞに支配される国はなっておらん!」という懐古主義に、悪魔信仰も麻薬も付け入ってきたのだろう。


 そして、それは確実に神聖帝国からの影響に違いない。




「元中立派は良くも悪くも生き残ることに長けているから、現状では大人しくしてるわよ。元帝国派と違って別にヘイトを稼いでないしね。」




 まあ、この国がヤバくなろうとしたら、どうなるか知らないけど、と彼女は付け加えるのを忘れなかった。


 逆にいえば、元中立派は国家運営が上手くいっているのなら問題ない、という事である。




 「問題は元帝国穏健派よ。『かつての旧帝国の威光再び』って考えてる連中はあっさりと神聖帝国から流れ込んできた悪魔信仰や麻薬に屈してしまったわ。


 私の勘だけど、恐らく元穏健派の半分ぐらいは浸食されているわ。この際にスパッと切り捨てるべきね。」




 そのシャルロッテの意見はリュフトヒェンも同じだった。


 麻薬とはそれほど恐ろしい物なのである。


 それで路頭に迷う元貴族たちも出るだろうが、それはそれで仕方ない事である。


 むしろ、神聖帝国に直通で送りつけたいぐらいである。




『了解した。そちらは思う存分やってくれて構わない。空いたポストに入れる予定の貴族の次男、三男たちの募集もかけよう。長男が麻薬に溺れていても、次男がまともで能力があれば首を挿げ替えて家を保つ救済措置も作ろう。』




 そこまで言うと、リュフトヒェンは、はあ、と疲れたようなため息をついて次の話題に移る。




『それじゃ、この問題はそれでよろしく。それと後ちょっと思いついたんだけど……この旧帝都に地脈を利用した大規模防護結界を張り巡らせていい?街を覆う結界さえあれば、空爆や山賊の襲撃からも市民を守る事ができるし。』




 つまり、地脈の流れに従って街の東西南北に結界の要である神殿か何かを作り、それを始点として街全体を覆う大規模結界を構成しようというのである。




「分かったわ。結界作りなら魔術師たちにも協力するように言っておくわ。


 本当なら街の作りから変えればもっと高度な結界を作ることもできるかもしれないけど……。まあ仕方ないわね。」




 大規模防護結界の構築は、シャルロッテも反対せず、むしろ積極的にやるべきだと推奨する立場である。


 以前は上が何やらと口出しや縄張り意識などで到底できなかったが、大辺境から旧帝都に流れ込んでくる地脈をある程度操作できるリュフトヒェンと、これだけ自由な権限があるのなら、むしろやらない方がおかしい。




 霊や悪魔、化け物を寄せ付けない常に張られている結界と異なり、防護結界は山賊や化け物たちの物理的な攻撃も防御できる反面、張りっぱなしでは誰も入ってこれないという欠点もある。


 そのため、結界のオンオフを誰が指示するかという問題もあるが、これはシャルロッテに権限を渡せばいいだろう。


 これが実用化されれば、市民を守る大きな力になるはずだ。


 うまくいけば。竜皇国の大都市や要所などにも同じような結界を作成していく予定である。




「それじゃ、結界の件はそれで。あと、こちらの研究だと、エキドナの落とし子の残骸があるでしょ?あれ回収できないかしら。新開発の封印分解炉パイロラスィス・リアクターに入れて、肉体を分解して魔力返還できれば、魔力発電、都市のエネルギー源として大きな力になるわ。」




あのグロい肉塊をエネルギー源にする、という発言を受けて、流石にリュフトヒェンも困惑した表情を浮かべる。




『えぇ……。(困惑)あれをエネルギー源にするとか大丈夫?魔力汚染とかされない?』




「魔力は濾過してあるから大丈夫だとは思うけど……。念のため生体に対して魔力を注ぎ込むのは禁止しておくわ。あくまで都市のエネルギー源ね。それにこれは封印・浄化・分解を行うことで、厄介なエキドナの落とし子の肉体を安全に処理する方法でもあるわ。まあ、気分的に人体実験されてない方の落とし子を推奨するけど。」




『了解。それじゃそれで試してみよう。機会があれば肉体の回収をしてくるわ。』




そうして、二人の会談は幕を閉じた。



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