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第10話 演出って大事だね。

『しっかり捕まってててねー。落ちても我は責任取れんし。まあ、君なら大丈夫だとは思うけど……。』




 次の日、リュフトヒェンはセレスティーナを近くの村にまで送り届けるために飛行を開始しようとしていた。


 ここ、リュフトヒェンの拠点の山岳要塞と大辺境の外周部の村とは、かなり離れている。魔物も平気で大量に徘徊するその間を安全に高速に移動するためには、やはり竜の飛行が一番であるというのが結論である。




「はいご主人様♡もしもの時には飛行魔術も浮遊魔術も使用可能です。問題はありません。」




 そう言いながら、防御結界を張って彼女は平然と風圧にも耐えている。


(何故か大の字で首根っこにへばりついて、はぁはぁ言ってるのはどうかと思ったが、怖いので突っ込むのをやめておいた)


 こういう所を見ると高位の魔術師である事は分かるのだが、やっぱり不安である。


 彼女のお目付け役として他にもついてきて欲しかったのだが、皆「竜様の背中に乗るなど……」と拒否して誰も来てくれなかった。


 まあ、確かに飛行機でもない竜の背中に乗れと言われたら前世の自分でも拒否するだろうが……。




 ともあれ、それに「空は竜の領地である」という考えは未だ根深いらしい。


 ワイバーンを利用して空を飛んだり、箒を使用して空を飛ぶ戦術爆撃魔女隊なども存在するが、やはり空は人間の領域ではない、という考えが一般的である。




 透き通るような青空を飛行していると、思わず竜としての本能が囁きかけてくる。


 ―――この空は我々の物だ。誰にも汚させはしない。


 その竜としての本能は、リュフトヒェンにとっても心地よいものだった。




『……ん?』




 本来は大辺境の外周部、つまり村の近くまで近づいて着陸し、セレスティーナを下して彼女が村に侵入するのをこっそり伺う予定だったのだが、リュフトヒェンの竜としての鋭い視力が村近くで異変が起こっているのが目に入る。




 村周辺で明らかに炊事とは異なる黒い煙が立ち上がっているのが目に入る。


 それを見てリュフトヒェンは、近くで着陸するのを取りやめて、村の上空を旋回し様子を見るプランに切り替える。


 上空から見てみると、大辺境の森から何らかの生物たちが出没して、村の柵へと襲い掛かっているのが目に入る。


 あれは恐らくゴブリンの群れの類だろう。


 大辺境内部には、当然魔物や怪物たちも住んでいる文字通りの魔境である。それらが外に出て、人間たちの村に襲い掛かるのは確かに不思議ではない。


 人間の兵士たちも厳重な柵を防護壁にしてゴブリンを撃退しているが、何せ多勢に無勢。見るからに不利なのは空から見ても分かる。




『……うーん。参ったなぁ。ここであいつらに村を壊滅させられても困るし、一つガツンとやって追い返しちゃいますか。』




 せっかくの人間社会との窓口を、あんな怪物たちに潰されてしまってはこちらが困る。ここは適当にがつんとやって怪物を追い返し、村の人間たちに恩を売る。


 これが一番自分にとって利益になる行動だ、と判断したのだろう。




「……分かりました。ご主人様の命とあれば異議はありません。


 それに、ここでご主人様ががつん、と怪物たちを叩きのめしてから出て行った方が効果的だと存じます。


 所詮、人間は演出には弱い物。分かりやすい演出ならば、ころり、とご主人様に従いましょう。」




 そのセレスティーナの言葉に頷きを返すと、高速で天空を駆る彼は飛翔しながら、鋭い咆哮を上げる。


 その荒ぶる咆哮に、村へと侵攻しているゴブリンたちや逃げまどいつつある人間は一斉に天を仰ぎ見る。竜の咆哮には、人間たちを恐慌状態にさせる効果がある。それはゴブリンなどにとっても例外ではない。


 自らの威容を見せつけるように、一度村の上空をフライハイして、さらに上空を旋回して再び戻ってくると同時に、竜語魔術でゴブリン軍の上空一面に雷雲を作り出し、そこから生まれた雷撃をゴブリンの群れに叩き落す。




 轟音と共に、その一面にまるで雨が降るかのように、そこ一面を無数の雷撃の雨が焼き尽くす。その一面にいた者は、ゴブリンも木々も例外なく焼き尽くされ、黒焦げになる。それは、まさしく神々が下す鉄槌そのものだった。


 範囲攻撃に何とか人間が巻き込まれないよう調整したので、人間に被害は出ていないはずである……多分。




 竜語魔術による空からの雷撃の雨を食らい、ゴブリンたちの群れは一斉に森の中へと撤退していく。元々、竜の咆哮を受けて士気が崩壊していたゴブリンたちにこれ以上戦う気力はなかっただろう。


 しかも、これによって大被害を受けた彼らは完全に戦う意志をなくして撤退していったのだ。




 ゴブリンの群れが撤退していったのを見たリュフトヒェンは、そのまま村のすぐ横に向かって着陸態勢へと入る。




 竜が村のすぐ傍にまでやってきて、着陸するのを見て、村人たちはそのまま彼の前に集まってきて一斉にひれ伏す。


 ゴブリンの群れを焼き払ってくれた所を見ると、どうやら敵ではないとは思われるが、それでもこれほどの被害を与える事のできる竜は彼らにとっても脅威である。




「その……ありがとうございます。竜様。ゴブリンどもを焼き払ってくれた事には礼を言いますが……その、何故我が村をお救いに……?」




『うむ、まず最初から本題をいうと、我には君たちに危害を与えるつもりはない、


 その代わり、我の下につけ……とは言わないが、我に協力してほしい。』




 そのリュフトヒェンの言葉に、村人たちは一斉にざわめき出した。


 見たところ人間よりは亜人の比率が多いが、それでも竜の支配下に事実上入れ、と言われれば動揺するのも当然だろう。


 そのざわつきを抑えるように、セレスティーナは一歩前に進み出ると、堂々とした態度で声を張り上げて村人たちに声を放つ。




「慌てるな。竜様が貴方たちに危害を与えるつもりがないのは今のを見れば明白だろう。竜様は、貴方たちを庇護下に置き、怪物たちから守護してくださるというのです。恭順し、忠誠を誓いなさい。さすれば貴方たちも平穏が約束されましょう。」




 あっ、この子何かいい所持っていった。まあいいか。後は彼女に任せてみよう、とリュフトヒェンは心の中で呟いた。

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