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第1話 クビ

「申し訳ないんだが、明日からこのパーティーを離れてくれないか?」


 リーダーの言葉を聞いて、俺ことダン・ストークが思ったのは、やっぱりな、だった。

 冒険者ギルドのとある座席。机を挟んで俺とリーダーは顔を見合わせていた。


「つまりクビ……ですか?」

「……端的に言うと」


 俺の質問にリーダーは机に手を組んだまま、苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「一応、理由を聞いても?」


 出来るだけ感情を抑えて事務的に質問すると、何を勘違いしたのかリーダーはとても慌てた様子で、落ち着け、とでも言うような素振りをした。


「もちろん、ダン、君が良いやつだ、というのはパーティーメンバー全員が知ってる。

 完璧な下準備。安全な道選び。

 荷物持ちも率先してやってくれる。疲れた仲間のケアもしてくれた。だけど――」


 リーダーはそこで言葉を切る。

 なんて言うか迷っているように口をもごもごとさせていた。

 やがて慎重に口を開くと、


「仲間が疲弊してしまってね……」


 リーダーの後ろにいる仲間たち。

 その誰もが顔がやつれさせ、目を曇らせていた。

 椅子に項垂れ、時にはため息を吐く。

 相当疲れが溜まっていることが見てわかる。


「ダンの仕事ぶりや性格が悪いわけじゃないんだ。

 むしろ優秀なくらいだ。ただ――君の恩恵〈ギフト〉の副作用が思ったよりもきつくてね……」


 リーダーでさえもよく見ると、目の下に隈が見えていた。

 冒険の度に夜通し警戒し続け、逃げ続けていたら誰しもそうなる。

 当然だ。


「俺たちはこれからもっと難易度の高い場所に行く。

 その時に君の副作用によって、更に危険な旅になってしまうのは避けたいんだ。だから――」

「わかりました」


 俺の一言にリーダーははっとした顔で俺を見た。


「俺もそろそろついていくのが限界だったし、これ以上いると取り返しのつかない大怪我をさせてしまいそうだ、と思ってたから……」

「あ、いや……」


 リーダーは罪悪感いっぱいの顔で俺を見ていた。

 上質な鎧を着て、背中に大剣を拵えていて、優秀な仲間を率いている男だと言うのに、偉そうにせず俺にとても気遣ってくれる。

 そういう優しいリーダーがいたからこそ、俺も居心地が良かったし、好きだったんだけど……。


「半年もいられたんです。

 俺はこんなすごいパーティーと一緒に活動できて、とても幸せでした」


 まぁ仕方がない。半年も入れてくれたんだ。俺にしては上出来じゃないか。


「お世話になりました」


 俺は立ち上がり丁寧にお辞儀をすると、振り返って出口へ向かう。

 最後までちゃんと笑っていられただろうか。

 顔を見合わせていたのに目は合わせられなかったな。

 お互い様だけど。

 去ろうとする俺の後ろで、ガタガタという物音が鳴った。

 きっとリーダーが立ち上がったのだろう。


「君のおかげで成長できたんだ!!」


 リーダーがそう叫ぶのを背中で受け止めて、だけど、歩むスピードを変えることはない。


「君がいなければこんなにも早く実力を持ったパーティーにはなれなかった!!」


 今更そう言われても、もう戻れないことはお互いわかっているじゃないか。


「それは皆、感謝しているんだ!! だから!!」


 だからリーダーもそんな言い方よしてくれよ。

 惨めになるだけだから。


「君の今後の活躍を祈っているよ……」


 ゆっくり閉じた扉は虚しい音を響かせた。

少しでも「面白そう」、「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想の程よろしくお願い致します。

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