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JCTOS 統合対テロ作戦センター

4年に1度の大統領選挙を目前に控えた日の朝、JCTOS(統合対テロ作戦センター)西海岸支部で捜査主任を務めるデヴィッドの下に情報屋から電話が掛かってきた。国の安全に関わる情報を掴んだ所為で身の危険を感じ、今すぐ保護して欲しい、と。

仕方なく保護を引き受けたデヴィッドだったが、事態は彼の想像以上に深刻な状況に陥っていた。

2024年11月3日 0840時(現地時間)

アメリカ合衆国カリフォルニア州ロングビーチ


 国の機関で捜査主任を務めるデヴィッドが職場の駐車場に車を止め、入口に向かって歩いているとスマホに馴染みの情報屋から電話が掛かってきた。


「ヤバい事になった! 今すぐ俺を保護してくれ!」

「詳しく話せ」

「電話じゃ話せないんだ! とにかく、保護してくれ! そしたら、すべて話す!」


 この情報屋とは、あくまでもデヴィッドが個人的に取引をしているだけだ。なので、内容も聞かずに彼の一存で組織は動かせない。


「ダメだ。説明しろ。でないと、このまま切る」

「この国の安全に関わる事だ! 今は、それしか言えない!」

「いいだろう。30分後に例の場所で」

「20分で来てくれ!」


 そう言って情報屋は電話を切る。その事にデヴィッドは多少の不満を覚えつつも車まで引き返し、各機関の対テロ部門を再編して1年前に新設されたばかりのJCTOS(統合対テロ作戦センター)西海岸支部を出発した。


   ◆


25分後

港湾施設に隣接する工業地帯


 デヴィッドとの待ち合わせ場所へ辿り着く寸前に情報屋の命運は尽きた。なぜなら、2人組の銃を持った男達に追いつかれて捕まり、地面に跪いた状態で後頭部に銃口を押し当てられていたからだ。

 この武装した連中は見た目こそ港湾労働者と変わらないが、サプレッサーを装着したハンドガンを持ち、彼が掴んだ情報を寄越せと脅していた。


「おい、こっちだ!」


 痺れを切らした男が狙いを耳に変えてトリガーを引こうとした時、デヴィッドが建物の陰から勢いよく飛び出して叫び、あえて目立つような行動をする。すると、男は反射的に声のした方を振り向き、彼が銃を構えているのを見て咄嗟に応戦しようとした。

 だが、飛び出した時点で男に照準を合わせていた彼の方が先に発砲し、『HK45T』ハンドガンの2連射を標的の胸に浴びせて射殺する。もう1人の男は、その間に射撃体勢を整えていたが、デヴィッドも素早く移動して遮蔽物の陰に身を隠していた。

 そして、男からの銃撃を凌ぎつつ牽制射撃で相手を怯ませると、銃撃が途切れた一瞬の隙を突いて2発の弾を胴体に撃ち込んで射殺した。


「こいつらは?」


 銃の弾倉を交換した後、周囲を警戒しつつ近付いたデヴィッドが射殺した男達の銃を蹴飛ばし、彼らの持ち物を漁ったりスマホで顔を撮影したりしながら怯えている情報屋に尋ねる。


「口封じに来た連中だ。大統領選挙を狙ってる」

「事実なのか?」

「証拠がある。安全な場所に着いたら、在りかを教える」


 この場で無理矢理聞き出すという考えも脳裏をよぎったが、それはそれで手間が掛かると判断した彼が情報屋を連れて行こうとした時だった。

 視界の隅で何かが動いた気がして立ち止まると同時に振り向いた瞬間、サプレッサーを装着した銃特有の発砲音が複数回聞こえ、銃弾が彼の左腕を掠めた。そして、うめき声と共に情報屋が倒れる。


「クソッ!」


 デヴィッドは思わず悪態を吐くと、素早く銃を構えて現場から走り去る人影らしきものを狙って連射した。だが、銃撃犯には逃げられてしまう。そこで撃たれた情報屋の容態を確認するが、致命傷を負っていて助かりそうにない。


「おい、死ぬ前に答えろ! 証拠はどこだ!?」

「ハッカー仲間……、“ゼウス”に……、預けた……」


 まだ死なれては困るので、出血を抑えるため傷口を圧迫しながら彼が問い掛けると、情報屋は息も絶え絶えに証拠の在りかを伝えた。


「あんたの……、部下……、裏切り者……」


 そして、最後に耳を疑いたくなるような事を呟いて死んだ。同時に彼は、情報屋が『電話じゃ話せない』と言っていた意味を理解する。しかし、状況は彼に事態を把握する暇さえ与えてくれない。


「銃を捨てろ! デヴィッド、お前をテロの共謀罪で逮捕する!」


 突然、ジャケット姿の男が『SOPMODⅡ M4』カービンで武装した兵士のような集団を引き連れて現場に現れ、武装した者達と共にハンドガンの銃口を彼に向けつつ叫んだ。


「話を聞いてくれ! 俺は――」

「抵抗するようなら射殺する。これは、支部長命令だ」


 両手を上げつつ事情を説明しようとしたデヴィッドの言葉を遮り、集団を率いる同僚の捜査官は冷たく言い放つと、包囲網を形成するJCTOS所属の特殊部隊TSU(戦術打撃ユニット)の隊員達を使って圧力を掛けてくる。


「投降する! だから、撃つな!」


 これ以上は状況を悪くするだけだと考え、彼は跪いて銃を地面に置いた。すると、2人のTSU隊員が銃を構えたまま近付き、その内の1人が後ろ手に手錠を掛けて彼を拘束する。さらに、身体検査が行われて銃だけでなく持ち物も全て押収された。


「連行するぞ」


 こうしてデヴィッドを拘束した捜査官は現場の処理を別の班に任せ、彼を西海岸支部まで護送する為に特殊部隊と共に車へ向かうのだった。


   ◆


0932時

市街地・支部への移動ルート上


 それは、デヴィッドを護送する車列が中央分離帯の無い片側4車線の直線道路で信号も交差点も無い区間を走行中に起きた。


「どうした?」

「分かりません!」


 車列の先頭を走っていた覆面パトカー仕様のダッジ『チャージャー』が電子制御系に仕掛けられていた細工を遠隔操作で起動され、運転手の操作に反して道の真ん中で急停止したのだ。さらに、エンジンも止まってしまう。

 当然のように運転手は慌ててギアをニュートラルに入れ、イグニッションキーを回してエンジンの再始動を試みるが、一向にエンジンが掛かる様子はない。

 その結果、後続の防弾鋼板を車体各部に追加した3台の特注のフォード『エクスペディション』も停車せざるを得なくなり、車間距離の詰まった状態で車列全体が停止した。

 そして、この瞬間を狙っていたかのように車列の右側にある立体駐車場2階に使い捨ての『AT-4CS』携行対戦車無反動砲を持った男が現れ、最後尾の車両を狙って攻撃する。

 特殊部隊仕様という事で銃撃戦に備えた改造が施されていたが、見た目や運用方法から威力に至るまでロケットランチャーに似た兵器の攻撃を受けた車両は弾頭が着弾した直後に爆発炎上し、逃げる暇さえ無かった4人のTSU隊員が死亡した。

 すると、現場付近に路上駐車していた小型トラックやバンの車内から『G36C』カービンを構えた覆面姿の武装集団が次々に飛び出し、車列を半包囲するように各々が遮蔽物の陰に陣取り、運悪く現場に居合わせた一般市民をも巻き込む形で激しい銃撃を浴びせてきた。


「アルファユニットだ! 攻撃を受けている! 至急、応援を――!」


 先頭車両の助手席に座っていたジャケット姿の捜査官が車内で身を屈め、車載無線機を掴んで西海岸支部を呼び出そうとするが、ノイズが聞こえるだけで繋がらない。

 そうしている間も銃撃は続き、車外に出て応戦しようとした運転席の捜査官はドアを開けた直後に複数の銃弾をフロントガラス越しに撃ち込まれて死んだ。


「チッ!」


 それを見た助手席の捜査官は無線連絡を諦め、舌打ちをしながら僅かに上体を起こして右手だけでハンドガンを構えると、近い位置にいた襲撃犯に大雑把に狙いを付けて連射する。こうして敵の1人を射殺したが、抵抗もそこまでだった。


「ガハッ……!」


 次の瞬間には、他の敵から一斉に撃たれて血塗れの死体になっていた。なお、この時点でJCTOS側は拘束されているデヴィッドを除いて半数が死んだ。

 そして、立体駐車場の2階に新たな『AT-4CS』携行対戦車無反動砲を構えた敵が現れ、事前情報によってデヴィッドが乗っていないと判明している2両目を攻撃した。


「車から離れろ!」


 さすがに今度は、狙われた車両を遮蔽物にして応戦していたTSU隊員の1人が気付き、大声で仲間に警告を発すると同時に被弾する危険を承知で走り出す。その直後に弾頭が着弾し、最初に狙われた車両と同じように車体が爆発炎上した。

 警告を発した隊員を含めて2人は難を逃れたが、1人は爆発で飛び散った車体の破片が首に突き刺さって死に、もう1人は車両の陰から飛び出した瞬間に顔を撃たれて死んだ。


「援護する!」


 そこで無事だった2人が身を隠す時間を稼ぐ為、デヴィッドを車内に残したまま車外で応戦していた2人の隊員が同時に弾幕を張って路上にいた3人の敵を射殺した。

 だが、立体駐車場2階にいた敵が『G28E3』マークスマンライフルで彼らを狙撃して殺し、それから1分と経たない内に最後の2人も射殺されてJCTOSの要員は全滅した。


「目的は何だ!?」


 その後、襲撃グループは車から後ろ手に拘束されたままのデヴィッドを引きずり降ろして路上に跪かせ、怒りに満ちた目で睨みながら叫ぶ彼に1人が無言でスマホの画面を見せる。


「貴様っ!」


 次の瞬間、拘束されているにも関わらずデヴィッドがスマホを持つ男に掴みかかろうとし、両脇から2人掛かりで押さえ込まれた。なぜなら、別居中の妻と一緒に暮らしている大学生の娘が口に粘着テープを貼られ、椅子に座った状態で拘束されている映像が映っていたからだ。


「がっ……!」

「見ての通り、お前の娘は我々が押さえている。娘が大切なら指示に従え。いいな?」


 スマホを持った男は彼を見下ろすと、冷淡な口調で告げた。


「行くぞ」


 殺意を漲らせながらも無言で必死に耐えるデヴィッドの姿を肯定と捉えたのか、男はスマホをポケットに入れると撤収を指示する。そして、彼をバンの荷台に放り込んで頭に麻袋を被せると、現場から走り去るのだった。

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