書き出し撲滅エンジェルズ!~エタった世界を完結(お)わらせろ!~
「このネタ危なくないですの?」
「だよなぁ……俺もそう思う、でもたまにはこういうのも悪くないかなってヤツが」
「ヤツって誰なのです?」
「それはまぎれもなく――ヤツさ」
「いや、誰ですの……?」
「こうやって、パロディネタ擦るやつって悲しいよね」
「自業自得では!?」
聖剣を抜き、街を出ない勇者! 攫われたのに一向に助けが来ないお姫様!
エタった奴らを救うのはそう! 書き出し撲滅エンジェルズ!
木造の小屋の中で少女は恐怖に震えていた。
商人の一人娘として産まれ、家族に愛されながら日々を過ごしていた。商いの勉強も行い、親の仕事を手伝うことが出来るようにまでに成長し、今では店の運営に関わることを許されていた。
しかし、商いが終わり、村からの帰りの際に護衛を付けずに過ごしていたことで、盗賊団に目を付けられる。
少女は奴隷として捕まり、この小屋の中に囚われることになってしまった。腕は頑丈な鎖で拘束されており、脱出する事が出来ない状況であった。
幽閉された小屋の中で、少女を捕まえた盗賊は斧を構え、得意気に語る。
おまえは商品価値が高い女だ。売ればかなりの金になる。捕まってくれてありがとなと。
こうして、少女はこの先の我が身を案じ、震えていた――はずだった。
人が消え始めたのだ。
少女も初めは気のせいだと思っていた。少女を捕らえたことで調子に乗った盗賊達は夜中に酒を飲み、酔っぱらい騒がしい毎日を過ごしていた。しかし、徐々に声の数が少なくなり、見かける盗賊の姿が少なくなっている気がした。
初めは別の獲物を狙いに出かけたのかと思っていた。だが、それにしては帰還する様子もない。何もなさすぎるのだ。
そうして、最後には朝と夜に飯を届けてくれた盗賊が来なくなった。しかし、飢える苦しみを感じることがなかったことで、少女は自身を取り巻く違和感を実感した。
次に、小屋の家具が消えていった。
眠りから目覚めたとき、ふと視界から外してしまったとき。最初から無かったかのように物が消えていた。
最後に、音が消えていった。
風が木々を揺らす音、虫の鳴き声。自身から発生する物音や声以外の音が聞こえなくなった。
少女は縛られたまま、孤独で震えていた。
小屋の中で、誰も来ない、何も聞こえない、何も感じない。自分も消えるかもしれないという恐怖。
やがて少女は――
「はい、ドーンと参上!!!!!!!!!! あ、ここ文字大きくしてね!!!! インパクト強め太字で!! え!? 対応外なの!? いい加減実装しろよその機能!!」
「だから誰に話してますの!?!!?」
……? え、誰……? なんか急に二人組入ってきた……怖、戸締りしとこ……
「急にドアを蹴っ飛ばして入ってきた男女の二人組! 男は剣を腰に付けており、どうやら若い少年のようだ! 女は動きやすそうな黒色のドレスを着ており、高貴そうな雰囲気を感じる!!」
「高貴そうなじゃなくて高貴です!」
蹴っ飛ばされた……あ、少女は人が来たことに安堵したが、それ以上に困惑した。
外では何の物音も聞こえなかった。盗賊がまだいるのであれば彼らに反応してもっと騒がしくなるはずだ。それに少年は高貴そうと言っていたが、商人としての彼女の目から見ると、隣にいる女性のドレスは貴族が着る高級なものだと即座に判断できる。しかし、なぜこんなところに来ているのかがわからない。
「えっと……貴方達は一体……?」
「よし! 名前を聞かれちゃ仕方ねぇ! さっき決めた決め台詞! 今やるぞ!」
「ええ……あれをやるんですの……?」
「ライター!」
「イレイザーですわ!」
「「書き出し撲滅エンジェルズ!! さぁお前の頁を数えろ……」」
彼らの素性を訪ねると、テンションをあげて謎のポーズをしだす。
「……?」
何なんだろうこの人達……不審者じゃん……
「……やっぱり滑りましたわ――ッ!?」
「ダメじゃないかイレイザー。ちゃんと変身って言わないと」
「いやそこじゃないと思いますわ!?」
「まったく、お前もまだまだだな。ちゃんと履修しておけよ」
「無視ですの!?」
ドレスを着た少女は頭を抱えて崩れ落ち、少年は慰めるように少女の背を叩く。
結局、何もわからない奴隷の少女は瞬きする。
「あ、あの……」
「さぁ! 俺たちは名乗ったんだ! お前も名乗れ! 君の名は!」
「ミ、ミリカです」
「よし! これで地の文が楽になったな。これだから三人称はダメなんだ。名称不明な奴が沢山居ると代名詞が誰を指すのか分からなくなる。一人称を書け」
「貴方一人称を書く奴は三人称に今すぐ変えろって貶してましたわよね?」「当たり前だろ?」「ええ……」
やはり、奴隷の少女――ミリカは彼らが話している意味がわからず、訝しげに見つめる。
それに気付いた少年は誤魔化すように咳をし、彼女に話しかけた。
「ああ、ごめんこっちの話。俺はライター。旅の剣士だ。んで、こっちがイレイザー。魔法使い。名前の通り消すのが得意でな。自分の胸も消し飛ばしたから永遠に小さいんだわ」
「胸の話はやめてくださる!?」
「そんな……」
「貴女も可哀想な目で胸を見るのやめてくださる!? 本当に全部消し飛ばしますわよ!?」
「おいおい、そんなに興奮するなよマナイタ―」
「イレイザーですが!!」
顔を赤くし、胸を押さえながらイレイザーは鋭い突っ込みをいれる。ミリカにとってこの二人の関係性はよくわからないが、イレイザーよりもライターのほうが立場が上であることは何となく把握できた。
「で、助けに来たわけだが、どうして欲しい?」
「とりあえずここから出して欲しいです」
「そっかぁ……おお、結構重そうなタンスに鎖で繋がれてるな。頑張ってな、応援してるわ」
「えっ」
「終わらせないでくださいまし!?」
話が終わったのか、満足そうに帰ろうとするライターをイレイザーが引き留める。
「終わらせないでっていってもなぁ……これ以上介入する必要はないだろ。ある程度の刺激も入れたしな。もう後は流れに任せるだけだ」
「いや、まぁそれはそうですけれど。ミリカさんもよくわかってないでしょうし……」
「ほんと甘いなお前は。そんなの記憶消せば済む話だろ? いちいちそんな説明してたら財団職員として働く際にすぐ死んじまうぞ? まぁ、話したいならお前の判断に任せるわ。じゃ、俺先に帰るから」
「財団職員っていうのはよくわかりませんが……ああもう! 規模が小さい仕事だとすぐ帰るんですから!!」
結局引き留めることはできず、イレイザーは呆れた表情で振り返る。
ミリカは鎖で括り付けられている状態から何も変わらず、困惑した表情を浮かべるのみだった。
「申し訳ないですわ、彼は凄い適当ですので……」
「えーっと、イレイザーさん。結局私は助けてもらえるのでしょうか……?」
「ええ、それは大丈夫ですわ、それで、わたくしたちの目的は――」
◆◇◆
「で、少女ミリカが盗賊に捕まり、捕縛された小屋から物語が始まるタイミングにエターナル現象が発生していたため、小屋から外の世界はすべて消滅。ミリカ本人も消滅しかけていたので、全てが消える前に接触を試み、自我の回復。その後似たような世界観設定をしてるナーロッパ世界の紐づけをして、物語の消失回避を行った感じです」
俺とイレイザーは大量の本棚に囲まれた、大図書館と言われている俺たちの拠点で報告を行っていた。
誰に報告してるかって? ほら、あのでっかい机の向こう側にあるでっかい椅子にまるっこい髪形をしたちっこい女の子が座ってるだろ? あれが報告相手の館長さ。本名はアンデル。無口で無表情なやつだが、感情豊かな俺の上司だ。
「報告ありがとうございます。初めてのお仕事お疲れ様でした。書き出し撲滅エンジェ…………本当にこの名前でいくんですか?」
「はい、館長。俺たちのチーム名をちゃんと呼んでください」
「改名とかしませんか? ほら、イレイザーさんも不服そうな顔してますけど」
「不服ですわ」
「いや、このままで」
どうしたのだろう? ここまで話題を逸らすような人ではなかったはずだが、問題でもあったのだろうか。
「……あのですね、何故かこのチーム名を私が名付けたと他の司書たちから噂されているので、変えて欲しいのですが」
「(面白そうなので)このままで」
即答すると、彼女は不服そうな表情を浮かべた。
うん。ちょこっとほっぺたを膨らましてる所が可愛い。アンデルちゃんマジ女神。
「わかりました。改めまして、お疲れ様です。書き出し撲滅エンジェルズ」
「普通に諦めますのね……」
やれやれとため息をつくイレイザーを横目に会話を続ける。
「ま、このくらいの任務なら簡単ですよ。サクッと終わりますって、深刻な事態にはなっていましたが、修復が困難ってわけではなかったので、実際その後の展開も自然になっているかと」
「そうですね。無事にミリカさんは騎士によって盗賊から救い出され、平穏な日常に戻っているみたいです。これといって新しい事件は起きていませんが、作者が居ない今は荒波を立てないほうが良いでしょうね」
と、アンデルちゃんはミリカの経緯が書かれた、俺たちが先ほどまでいた世界の本を閉じる。
「でしょ? 俺たちに任せたらこんなもんですよ」
この大図書館には大量の本があり、一つ一つに世界と物語が封入されている。
そして、本を脅かす存在として『エターナル現象』ってのがある。
作者が物語を紡ぐことを辞めてしまうと、世界の流れが凍結してしまう。その後、作品そのものを忘れてしまうと、主要でない情報から徐々に世界が崩壊してしまう。
俺たちはこれを防ぐために活動してるんだ。
今回の場合は主人公以外の要素が崩壊してたから、既存のものを張り付けて対処したってわけだな。
「確かに事態は丸く収まりましたが、異議ありですわ! 隣で見てて、ライターさんのやり方は非常に雑だと思いますの!!」
「え、お前今回何もしてないのにそういうこと言うの? 胸もないのに?」
「胸がないは余計で