表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

第2話(その4)

 メビウスは生田神社の近くにあった。元は真珠を商っていたという、異常に親指の太いマスターが営む小さなスナックだった。


 松岡が神戸へ配属になって以来、なにかにつけて通い続けた店で、どこか昭和の味のする店だった。


 伊東から受取ったカードは、白地に店の名前と住所が書かれ、後は右上に通し番号があるだけ。いかにも店で作りましたと言わんばかりで、市販のソフトで厚手の紙に印刷した名刺大のものであった。


「もらっても、良いんですか?」

「ああ……まだボトルがあるはずや」


「伊東さんは……」

「ああ、また行きたいな、このプロジェクトが終ったら……」


 そう言う伊東の目は、どこか儚げだった。

 改めて見る顔は、急に老けた様に見えた。


 松岡は、過去30数年の間になんど伊東と酒を酌み交わしたことか。そんなことを今更の様に思い起こした。


 駆け出しの頃、初めて設計した船が進水した夜、伊東が飲みに連れて行ってくれた。伊東と欧州へ行った帰り、真っ直ぐメビウスへ凱旋したことも度々。


 額の禿げあがった、女形の様な物言いをするマスターが懐かしかった。

 だが最近は店と縁遠くなっていた。


(マスター、元気かなあ)

 そんな思いに松岡はほっとして、車の座席に背を預けた。


 初出社で疲れもあり、車中の静けさがありがたかった。運転手の肩越し、フロントガラスの向こうに夜の静寂があった。増上寺の木立か、どこまでも続くのではないかと思わせるほど、暗い闇が漂っていた。


(第3話へつづく)


第3話、明日へ続きます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ