表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

第2話(その3)

(人は重役コースに乗るとこうも変わるのか)


 懐かしい伊東の顔と声を目前にしながら、松岡は疑わざるを得なかった。

 更に驚いたことに、伊東が次の店に行くと言う。


 初日の会議が押した関係で、2人が居酒屋へ入ったのは午後8時を過ぎていた。かつての伊東であれば、部下の話を端折って二次会へ行こうなどということ自体、なかったことだった。


 店を出た伊東は明らかに目的地があるらしく、表通りへ出るとタクシーを拾った。


「六本木へ行って。麻布警察の対面あたり」                  

 タクシーに乗り込むと、伊東は場所を指定した。


(伊東さんが六本木へ?)

 松岡の心に深い疑念が沸いた。


(明らかに前の伊東さんとは違う)

 と思うと、改めてその横顔を見た。


「伊東さんが六本木なんて、すごいですね」

 松岡は皮肉を込めたつもりだった。


 直言居士としては精一杯だった。その言葉は、かつて口煩い部下のそれではなく、上司に対する在り来りのご追従以外の何物でもなかった。


「ああ、良いとこへ連れてってやるよ……」

 伊東は松岡の心を知ってか知らずか、無関心な様子だった。


 いくら飲んでも変わらぬところは以前のまま。

 だが眩しい窓の外へ向けた表情には、何か別のものが宿っていた。


「そう言えば、東門のスナック、なんと言ったかな?」

「あれ、忘れたんですが、ご自分で名前を付けておいて」


「ああ、そうか、メビウスだったな」

「ええ、あのメビウスが、どうかしました?」


「これを……君にやるわ」

「えっ、なんですかこれ」


「メンバーズカード、みたいなもんかな」

「えっ、これ今年の日付じゃないですか」


「ああ、神戸で会議があった時に寄ってね」

「まだ、あったんですか……、あの店」


 突然、話題が変わったことで、松岡は伊東の思いを読もうとしていた。


(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ