第2話「メビウスのカード」(その1)
奥まった会議室に集まったメンバーは特殊だった。
通常、新造船の計画プロジェクトと言えば、基本設計、船装と艤装、機関と電装、そして配管設計とメンバーは決まっている。松岡の所掌はいつも艤装だが、役員を除くメンバーは七八名がいいところ。
だがテーブルをコの字に配した会議室には十数名が出席していた。松岡は初対面の挨拶で名刺を交換したが、既存の部署以外に、見慣れない「開発室」のメンバーが5名いた。彼らはどこか雰囲気が違っていた。
会議は伊東が口火を切り、計画概案の説明から始まった。
午前中は、過去の実証試験に至る設計履歴の紹介で終わり、短い昼食時間の後、午後から具体的な新設計の説明に移っていった。
建造仕様書の冒頭には、空港建造案として長さ1000m、幅120m、型深さ18mのフロートをベースとすると記されていた。
ここまでは、旧プロジェクトメンバーである松岡の記憶にある仕様と同じだった。だが説明が進むにつれ、30年前に開発が始まり、その後完全に葬り去られた計画とは、まったく内容が違っていた。
それは「トリマラン」という表現に集約されていた。なんと1000mのフロートを4連繋ぎ、全長4000mのメガフロートとし、更にそれを3基、洋上で並列させ「トリマラン構造」にすると言うのだ。
確かに3基を並列に結合させれば、海上の面積は羽田空港の敷地の十分の一程の広さとなり、広大な洋上空港となる。
だがそれをどこへ浮かべるのか。どうやって所定位置へ移動させ 、いかに連結するのか。長らく一般商船の艤装に携わってきた松岡にしても、まったく経験のない基本計画だった。
仕様書を読んでいる内に、久しぶりに前頭葉がチリチリして、それでいてデジャブの様な感覚を覚える松岡だった。
(つづく)