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ここはどこだろうか。
俺は寝転がっているようだ。頭に土と草の感触が伝わる。それと同時に草特有のツンとする匂いもした。目を開くと木の枝も見える。そして木の枝の間から漏れる光が俺を照らしていた。
俺は立ち上がり見回す。あたり一帯に木や草が生えていた。ここは草原ではなく森だな。
俺はなんでこんなところにいるのだろうか。どうしても思い出せない。思い出せそうなところまではいくのだが、肝心なところで誰かに邪魔をされているようにも感じる。
でもここを歩いたら何か情報を得られるかもしれない。俺は目的もなくただただ歩く。
森の土は少し水分を含んでいた。もしかしたらここは雨が上がった後なのかもしれないな。
少し歩いたところで俺は鳩を見つけた。鳩は羽を広げたまま空に止まって動かない。俺は手が届くのではないかと地面を踏みつけてを上に突き出して飛ぶ。しかしあと少しの所まで行くが届かない。俺は何回か試行錯誤したのち、あきらめ先に進み、踏みつけていた地面を振り返る。
この世界に本当に希望など生まれるのだろうか。
「に………ん」「に…ち…ん」「兄ちゃん」「おいおい大丈夫か?」
うーんなんだ。話し掛けられているのか?俺は目を覚ました。
「起きたか」
そこには知らない男が立っていた。セットしているのか、くせっけなのか分からない中途半端な髪形をしていて年齢は少し俺より年上なガタイのいいワイルドな男という印象だ。モテそうな男だ。うらやましい。
俺は起き上がり男に問いかける。
「お前は誰だ?」
「俺は山田和人だ。和人と呼んでくれ。それよりお前大丈夫か?」
「俺は赤坂斗だ。じゃあ俺は斗と呼んでくれ。俺はもう大丈夫だ」
俺は立ち上がり帰ろうとする。もちろん帰る場所はない。俺もあのベンチで寝るのか……
「どう見ても大丈夫じゃないだろ。びしょ濡れだし、風邪をひくぞ?」
ふと空を見るとさっきの雨が嘘のように晴れていた。虹までかかっている。呑気なもんだ。そうだ、俺は風邪もひいていたな。どうしようか。
「斗、帰る当てはあるんだろうな?」
「ない。というか一文無しだ」
「そうか、一文無しに……って!お前その体でどうするんだよ!もういい、しょうがねえ泊めてやるよ」
「そんなことできるわけない。迷惑だろ」
俺は一文無しだし女でもない。何も返すものはない。それにあったばかりの人に養ってもらうなんて申し訳なくてできるわけがない。
「駄目だ。絶対に連れていく。知ってしまった以上見捨てるなんてできない。俺はそういう性分なんだ。まぁ後で事情を聞くけどな。取り敢えず付いて来い」
有無を言わせず、手を引っ張ってくる。
ついていくしかないか。振り払らって逃げたとしても速攻で追いつかれそうだしな。俺は良くも悪くも自分を理解しているつもりだ。それに体調が悪化するかもしれないしここは頼むしかないか。
「分かった。申し訳ないな」
「ここだ」
赤い屋根を付けた白壁の二階建ての一軒家だ。
「こんなのどうやって買ったんだ?」
「ちょっとばかし経験があったもんでキルが結構出来たわけよ。それに出来たばっかのころは相当安かったぞ。」
そんなに安かったのか。あの時に買っておけば良かったと俺は今更後悔する。
「まぁいい入れ」
中は白を基調とした家具が置いてある。テーブルに椅子、それにテレビまである。当たり前だが綺麗だ。埃一つもない。和人って綺麗好きなのか?俺はそのままキッチンまで進む。
前言撤回だ。駄目だこりゃ。キッチンはゴミで溢れかえっていた。
「汚くてごめんな。まあ取り敢えず座れ」
「いや駄目だ。俺は綺麗好きなんだ。掃除をしてやるよ」
「申し訳ないよ。そんなの」
「俺は家を借りているんだ。このぐらいしないとだろう?」
「そうか…?じゃあお言葉に甘えてお願いするよ。」
掃除を終えた俺はリビングに座っている和人の向かいの席に座る。
「いや~助かった。ありがとうな。片付けようとはずっと思ってたんだけどなかなかな。
そういえば、何で斗は一文無しなんだ?」
「ある女からクランに入らないかと言われて、入ったらポイントを全部取られちまった。
あの女、絶対許さねえ!」
「それはダメだな。聞いてるこっちがイライラしてきた。殴りに行っていいか?」
殴りに行く?和人だと本当に行きかねない。さっきも言ったけど結構ガタイがいいし。
「そ、それはちょっと……」
俺はおどおどしながら答える。
「あっはは。斗面白えな。冗談だってば。俺は暴力はなるべく振るわないようにしてるんだ。制御できなくなるかもしれないだろ?」
やばい、こいつ怖すぎる。腕をぶんぶん振り回してるし。
「そうそう斗、今日の分のポイントはどうなったんだ?」
「あいにく俺は弱いもんでね、1発も玉を当てられずに無様に死にましたよ。ってか一文無しって言ってんだから察してくれよ!」
「あぁ、そうだったな。すまなかった。つい、な?」
こいつ天然なのか?それとも嫌味か?どちらにしてもムカつく。でもお世話になってるし文句は言えない。
「それより、和人。お前強いんだろ?俺に教えてくれねえか?」
家と家具をたくさん買えるほどの実力があるのなら俺も少しはましになるかもしれない。
「いいぞ、教えてやる!じゃあ、朝と夕方にびっちりやってやるよ。」
「おう!しごくなりなんなりしてくれ」
「そのちょっとあれな勘違いをされる表現はやめておけよ。
じゃあ、お前の出征払いってことで飯にでも行くか?」
「ちょっと最後の方は聞こえなかったが腹が減ったし飯には賛成だ。」
「よし全会一致ってことで飯に行くか。でもただおごりっていうのもな~
よし、いつかお前が俺より強くなったら帳消しでどうだ?」
二人で全会一致っていうのもあれだが触れないでおくことにするか。それにどうせやるなら一番になりたいしな。
「ああ!任せとけ!絶対にお前より強くなって見せるさ」
「ああ、上等だ。期待してるぞ」
外に出るとあたりはもう真っ暗だった。俺たちは街灯を頼りに飲み屋を目指す。
例の飲み屋に行こうとしたが、俺のトラウマが発動するので隣の飲み屋にしてもらった。
店の中は外の暗さが嘘のように明るくにぎわっていた。俺は和人の向かいの席に座り、オーダーする。和人は肉と酒、俺はピザと酒を頼んだ。もちろんピザはマルゲリータ。俺はチーズが好きなんだ。
「そういえば何でお前1発も当たらないんだ?」
和人は至って不思議そうに聞いてくる。出来ないのが分からないってやつか。俺とは完全に違う人種だ。よく学校とかでいるよな。至極うらやましいよ。
「習ってるところはあっているんだけど気付いたら弾が天井に当たっているんだよね。友人に教えてもらったんだがな」
俺の腕が弱いのか?だとしたらごつい和人が強いのも分かる気がする。
「一様聞いておくが斗、お前ノズルブレーキはつけてるか?」
「なにそれ。知らないぞ」
「それは当てられないわけだ。小さい黒いやつだよ落ちてなかったか?」
そういえばそんなものもあったような気がする。まあ使い道がわからなくてスルーしたけど。
「あったな。あんなもので反動を押さえられるのか?それにどうやって使うんだ?あれ」
「銃の先端につけるんだよ。簡単だろ?因みに斗のスキルってなんだ?」
「スキル?ああ、あの男が言ってたやつか」
「そうそれだ。俺は連射速度と筋肉増大だ。発動するときはライフウォッチを使うんだ」
大体わかった。そういえば俺はエキストラスキルを持ってるんだよな。
俺は言われた通りライフウォッチを見てみる。
〈ユニークスキル・棍棒〉
〈エキストラスキル・「???」〉
「棍棒!棍棒だってぇ?なんだこのスキル!やめてくれお腹が壊れる」
「ふざけんな!棍棒なんてどうやって使えっていうんだよ」
「後ろから不意打ちすればいいんじゃないのかぁ~?」
「確かに後ろからバーン…って絶対バレるから!老人でも気づくよ!」
「わしは気付かないかもしれないな~それに喜べ回数無制限だってさ。何回でも振れるみたいだぞ」
和人が老人の真似をして煽ってくる。でもこの際そんなのどうでもいい。おい運営、ただでさえ弱い奴にこの仕打ちはないんじゃないか?
「逆に回数制限があったらもう言葉で言い表せないぐらいのゴミさだな。
もう一つは…エキストラスキル!?エキストラスキルって「ミニゲーム」の上位10名にしか与えられない奴じゃねえか。お前あれ得意なのか?」
「いや実はな…」
俺はミニゲームであったことを包み隠さず――否。女性だけを隠して話す。
話し終えると和人はニヤニヤしながら背中をたたいてきた。
「お前のことだからそんなことだと思ってたよ。物好きもいるもんだ」
「そうなるとお前も物好きってことにならないか?」
「あ、確かに。俺は物好きなんだな。それにしても残念だったな。1位ならやばい量のポイントがあったっていうのに。でもまあエキストラスキルとやらですぐ取り返せるんじゃないのか?よかったな~」
「いやどんなスキルかわかってない時点で弱すぎるから。そのニヤニヤをやめやがれ~!」