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thx
俺は村の野原に寝転がっている。俺にはもう自信とポイントがない。情けない俺にはこれがお似合いだろう。時々目の中に入ってくる雨水も顔を這う蟻も気にならない。何も感じない。
「大丈夫?」
女が俺の顔を覗き込んでくると同時に傘を差してきた。
「俺に話しかけるな。もう嫌なんだ。どうかやめてくれ。それにその傘は自分で使えよ。濡れるだろう」
「嫌だよ~」
女は微笑みながら言ってきた。こいつ馬鹿にしてるのか。
「嫌でもだ!本当に頼む!俺はもうだめなんだ!」
「だから、嫌だって言ってるじゃん。君辛そうだもん。」
「辛くなんかねえよ!俺は自分の弱さに絶望しているだけだ。」
「本当?でも君泣いてるよ?」
俺は自分の頬に触れる。確かに俺の頬にはそれが流れていた。俺は辛くなんあてない。悲しくなんてない。だから、だからこれはっ!俺は頬をぬぐって叫ぶ。
「泣いてなんていない!俺は泣いちゃダメなんだ。お前の傘に穴が開いてるから濡れてるんだよ!」
俺は泣くなんて情けないことをしてはならない。俺はいろんなものを背負っているんだ。
女は俺の頭の両脇に手をつく。いわゆる逆床ドンってやつか。何より、近い。
「人のカサってね、もろいんだよ。何か辛いこととか嫌なことがあったらすぐに穴が開いてあふれてくるの。普通だったらすべてあふれて出し切ったらその穴は塞がります。もしその穴を指でふさいだらあふれなくはなるかもしれない。でもその穴は大きくなって指では抑えられなくなっている。今の君だね。
辛いことがあったら我慢しなくていいんだよ。苦しくて悔しくて自分が嫌いになってしまってもなくことを忘れてはいけないよ。さあ、少年好きなだけ泣くんだ~!」
女性は寝転がっている俺を起こして膝の上に乗っかり抱きしめてくる。胸の感触が俺の頭に伝わる。子供みたいだ。俺は子供のように泣きじゃくる。
女性は俺の頭をなでながらあやしてくれた。
「たくさん泣いたね~服にしみがついちゃったよ~」
女性の服は胸の谷間を中心に同心円状に大きなしみがついている。どうしよう。
「ごめんなさい!汚しちゃいましたよね…?どうしたら!」
「いいんだよ、着替えるから気にしないで。
そうだ、クラン戦一緒にやろうよ。まあ、君がソロ戦突破できるかだけど、私は信じてるからね~
じゃあ、連絡先置いとくから」
女性は連絡先を書いた紙を落として去ってった。
「まって!名前教えてくれませんか…?」
「う~んそうだな。詩織、詩織だよ?じゃあね~」
詩織?詩織…まさか。
「あの!」
俺は小さい声で囁いたが途中でやめた。
未練がましいよな。そんなわけないのに。
「へくしゅ」
そのくしゃみが火ぶたを切ったように俺の体が身震いしてくる。そして意識が遠ざかって気を失ってしまった。
これは私がⅤRMMОの世界に閉じ込められる前の話です。
ある日私の家で火事が起きました。火は凄まじい勢いで燃え広がり、私の家はほぼ全部が燃えてしまっていました。
その時、私はお父さんと一緒にいました。父に逃げようと言われたのですが、私は恐怖で動けなくなってしまいました。
「早く!急げ!詩織!」
そうお父さんに言われたその時でした。私の頭上に燃えた天井の木が落ちてきたんです。お父さんは「逃げて!」と言って私を突き飛ばし、私の代わりに下敷きになりました。
「早く…行け!」
私は泣きながら走りました。怖かったです。苦しかったです。その後消防士が来て私は助かりました。
しばらくして、お父さんが死んだと知らされました。
私は私がお父さんを殺してしまったと、自分を責め続け、泣いていました。絶望していた私に祖母はこう声をかけてきました。
「詩織は自分を責める必要はないよ。あいつは詩織に生きてもらうために死んだんだ。だから詩織はあいつの分まで生きなきゃならない。
それに親子の絆っていうのはなかなか消えないんだ。あいつは詩織の中にずっと生きている。だから、詩織が自分を責めたりしたらあいつは悲しんじまうよ。」
そうか、私の中にはお父さんは生きている。だから私はお父さんの分まで強く生きなければならない。
半年後男の人が家にやってきた。その男の人は今日から私の父親になるといった。
でも、男の人は私の父親になることができない。
私のお父さんは私の中に生きているんだから。
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