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ありがとう。
1万人が1時間で死ぬ。あまりにも狂気に満ちていてあまり実感がわいてこない。だが、それに目を背けることは絶対にしてはならない。他人事ではないんだ。いつ自分が同じ目に合うのかもわからないし、実際合っている人を目の前で見た。あの人達を「死」なせてはならない。そして死んでいった人たちのためにあの男に復讐を。
「1万人を切った今敵の強さが一気に上がり、空から空爆が落ちてくる。この程度の敵が強くなったところで俺は大丈夫なんだが空爆には手が回らない。空爆には規則性がないからお前は空を見て教えてくれ。とはいってもまだそこまでの頻度で落ちるわけでもないから安心しろ」
「わかった。任しとけ」
男がボタンを押すとイェーガーの頭が開き俺の座っている座席が上に上がった。
「揺れてて怖いんだけどこの方法しかないのか?」
「ご希望であればイェーガーの上に乗っかりますか?落ちたら餌として使わせてもらいますけど」
「嫌です、すみません。黙って乗りますから許してください~」
「よろしい、ところで頭上を見てみてくれ」
俺は言われたとおりに空を見上げると5mほど上から空爆が落ちてきているではないか。こうなるとまず一番に食らうのは俺だ。俺は焦って男に指示を出す。
「右だ、右!よし、俺は言ったからな。さあ右に行くんだ」
俺が指示を出した数秒後に空爆は地上に落下し、爆発した。俺は男にドヤ顔を見せてやる。
「すごいすご~い。さあその選択は君に何をもたらしてくれるかな?」
「あ?安全だろ。そうだな、俺の美しい顔も保たれるかな?」
「おお、それはよかったな。そんなきれいな君に朗報だ。上を見てみてくれ」
やれやれとばかりに俺はまた顔を上げる。すると俺の顔の2mほど上まで空爆が迫ってきていた。
これはよけられない。やめてくれ俺にはまだやらなきゃいけないことが…
俺は目をつむって祈るが空爆はとどまることを知らず、俺の顔の上で爆発した。
「あああああああっっ!!」
ついに死んだか。だが近くで笑い声がする。俺は恐る恐る瞼を上げる。すると自分の体が顔を中心にこなまみれになってた。息を吸うと粉が気管につきせき込んでしまう。苦しんでいると男が水を差しだしてきた。俺はひったくり水で口の中をゆすいで吐き、そのままのどに水を流し込む。助かったぁ。
「いやあ、大丈夫かい?楽しませてもらったよ。言ってなかったね。白の空爆は白い粉、黒い空爆はその名の通りだ。いや~それにしても滑稽だ」
「お前、いい加減に笑うのをやめろ!もうやらないぞ?」
「おっといいのかな?今度は本物のような気がするよ?」
黒だ。癪だが死にたくないので諦めよう。
「わかったよ、右だ。右ぃ!」
俺たちは協力して空爆の間を掻い潜りながら進撃する。途中で何回か敵が強くなったが男はものともせず倒し続けとうとう残りは俺たちだけになりこの一帯も敵がいなくなった。
「よし終わりだ。1位はお前に譲ってやる。俺は自爆してくるから」
「ちょっとまてよ、悪いよそんなの!お前が頑張ったのに」
「いやお前ポイントないと困るだろ?別に2位でもエキストラスキルもらえるしな」
確かに言われてみればそうだ。こいつ俺のことわかってる。まあ、あれだけ逃げてたらそうなるか。でもそれにしてもいい奴だ。
「それに楽しませてもらったしな。真っ白になってむせてて面白かったよ。うぃひぃひぃひっ」
前言撤回。やっぱりこいつだめだ。俺はこぶしを作り、軽く男に向かって殴るふりをする。すると大げさに男が痛いのは御免だと言いながらよける。
「よし、じゃあな。楽しかったぜ。1位譲ってやったんだから絶対にクラン戦まではまず行けよ?待ってるからな。」
そういうと男はイェーガーに乗り、歩いて行った。そういえば…
「ちょっと待ってくれ。お前の名前を教えてくれないか?」
男は振り返り少し考えた表情を見せた。自分の名前って考える必要なくないか?
「そうだな、ゲパルト。そう呼ぶといい。じゃあな。」
ゲパルトはまた振り返り今度こそ去っていった。
そうか、ゲパルトというのか。ゲパルト。いい名前だ。
俺にはあの男に復讐を果たさなければならないという使命を負っている。それが俺にできる最善で最大の罪滅ぼしだ。許してくれるだろうか。今となってはそれすら確認することができない。
だが、ひとまずソロ戦をクリアしないと。