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ありがとう。
なんだこのミニゲームってのは。体験版やってない奴は分が悪いにも程があるだろ。それになんだあの男は。ルール説明はいいだろうだって?ゲームマスターであるお前がそれでどうすんだよ!
「おい!おい!おい!おい!」
おいおいと叫びながら俺の前を二つの足で支えられた円形の戦闘機の謎の集団が機械音を立てながら走り抜けていった。あいつらなんかの宗教団体なのか?
まあ、俺も乗りたくないと言ったら嘘になるし、そうなる気持ちも分からなくない。だが、状況判断能力をつけたほうがいいのではないかと俺は鼻で笑う。
とはいっても俺も乗らないとゲーム的に不利になりそうなのでライフウォッチを見てみる。あくまでもゲーム的にだからな?するとそこには『イェーガー未起動』と書かれていて、そのすぐ下には『起動』と書かれたボタンがあった。この戦闘機はイェーガーというみたいだ。
俺は迷わず起動を押す。するとおれの前にイェーガーが足から作られ始めた。
しかし、問題は起動の下に書かれた文字だ。開始まで残り3秒だって?冗談じゃない。待ってくれるよな?
だがこの理不尽なゲームが待ってくれるはずもなくイェーガーの足がちょうどできたところで轟音を響かせながら敵のイエーガーが起動した。
まずい。これはものすごくまずい。せめて頭から作ってくれよ!足から作ってもらったってどうしようもないじゃないか!
どうやら俺が一番状況判断能力がついていなかったようだ。
俺は使い物にもならないイェーガーを置いて隠れられる場所を探す。すると木の葉っぱがついているギリースーツを見つけた。俺はここぞとばかりに同じ模様の葉っぱがある場所に試しにギリースーツを落としてみる。
「全く気付かないな。これ」
大げさに言ってるわけではない。完全にこのギリースーツは周囲に溶け込んでいた。そして俺はその瞬間勝利を確信し、ギリースーツを着て落ち葉の上に寝る。
俺はライフウォッチのログを見る。人はどんどん死んでいっている。今この瞬間にもだ。人の死の上に俺はいま立っている。そう思うと喜んでなんかいられず吐き気がしてくる。
もうあの男の手によって千人もの人が死んでいた。
しばらくすると落ち葉を踏む音がしてきた。なんだろうかと見てみると100メートルほど先にギリースーツを着た人が俺と同じように地面に寝転がった。
顔は向こうを向いているのでわからないが体は少し震えていた。でもそれも無理はないだろう。イエーガーは空と地を徘徊し、空から榴弾を、地からはレーザーを撃っている。ここにはまだ来ていないから死んでないものの、いつここに来るのかもわからない。俺たちは常に死と隣り合わせだ。
じっとも見つめているとその人がこちらを向いた。かわいらしい女性だ。女性はこっちを見ると驚いた表情を見せたがすぐに微笑んできた。
俺は微笑みを返すと口パクで話しかける。声は出せないが伝わるだろうか。
〈こんにちは〉
〈こんにちは〉
どうやら伝わったようだ。俺たちはそのまま話を続ける。
〈大変だね〉
〈そうですね〉
普通に話をしていたら突然彼女の顔が青ざめまた震え始めた。
〈うえ〉
上?どういうことだろうか。俺は顔の上にかかっている葉っぱを除ける。すると、イエーガーがいた。俺の上にずっと止まっていて何かを見ているように微動だにしない。
遠くから見ていても迫力を感じるイエーガーが真上にいるのだ。大きさは普通のイェーガーの何百倍だろうか。俺の体は命の危機を感じたのか全身から汗を噴出させ動くことを良しとしない。
しばらくじっとしているとイエーガーは動き出し去っていった。緊張から解放された俺はまた汗をかく。
一安心した俺は女性に笑顔で話しかける。
〈危なかったですね〉
〈そうですね〉
女性も安心したようで笑顔を取り戻した。
〈名前知りたいです〉
しまった。いきなりこんなことを聞かれたら困らないだろうか。だが女性は笑顔で口を開いてくれた。
しかし、その瞬間俺の目の前が爆発音とともに燃え上がった。
「おい…嘘だろ…?」
火は10秒ほどしたら何事もなかったように収まった。
しかし、女性がいたところも、もう何もなかった。葉っぱも草も木も骨すらもない。
ついさっきまで話していた人がもういない。俺に少しでも心を開いて名前を教えようとしてくれていたというのに俺は知ることは出来なかった。
俺は立ち上がり榴弾が撃たれたと思われる方向を見ると俺のほうへイエーガーが向かってきていた。そこからでも十分撃てるはずだ。現にあいつはあそこから女性を撃った。それにそれでも撃たずに向かってきてるのは俺を弄びそれに快感を覚えているのだろう。
しかし、俺には抵抗する手段はない。そのせいで女性も守ることができなかった。俺は情けない奴だ。死んだほうがいい奴なのかもしれない。だが、もっと情けないことに俺の足は前へ前へと走り止まることを許さない。
そんな俺に神が天罰を下すかの如く俺は石につまずき転ぶ。そして俺の頭上にはイエーガーが来ていた。
「終わった……」
俺は死を覚悟して目を瞑る。燃えるような熱さとともに爆発音がした。だが何かがおかしい。爆発音は後ろからした。あいつが外したのか?
「おい、おまえずっと持たせるんじゃねえ。いいから乗れ」
俺はチーターの被り物をしていてヘリウムで声が変えられた男が乗っているイェーガーに服をつかまれていた。