095 自然な動きに関する考察 その2
相手に勝つ為に芸事を習いに来た。
しかし、今、
私は『負け方』を学んでいる。
えらい矛盾なのであるが、
勝つ為にそれが必要なのだから、やらねばならない。
武術の上達の為には、
相手に勝つ為には、
どんな手段をも厭わない。
たとえ悪魔に魂を売っても構わない。
武術家は大体そんな心構えがある。
だから、
『勝つ為には負けなければならない』
と言われたら、
当然そうしなければならない。
ただ相手に負けるだけではない。
相手がより気持ち良く勝つ様に、
相手が何の違和感も感じない様な、
そんな自分の負け方を学ばなければならない。
相手のベクトルの理解。
相手の力の出し方の理解。
その為には、
自分の中の負ける事への恐怖と抵抗。
それらを抑え込まなければならない。
矛盾の克服が、武術の階段を上がるための重大なポイント。
そして、生徒の一人が、その矛盾に悩んでいる。
彼は師匠から注意を受けていた。
師匠「相手を押そうとして体重を掛けるな」
私も今まで散々言われた言葉。
そして、私もなかなか上手く出来ない事。
その様子をK先輩が見ていて、ふと言った。
「ああ、作為的で不自然なんだ。」
作為的?
不自然?
意味が解らず尋ねる。
K先輩「彼は、相手をどうこうしようとしているだろ?、それが作為。
人間の作為的な意識が介在したものは不自然なんだ。」
ならば無作為は?
K先輩「相手を押そうとせずに、ただ手を出せ、相手を意識するな‥‥‥‥
って師匠が言っているだろう?、それが無作為。自然な動き。」
後に師匠から説明が入ったが、
「ネイチャーじゃないからな」
との事。
K先輩「師匠の武術での動きは、無作為で自然な動きなんだ。
だから、自然すぎて、動きが当たり前すぎてわからない、読めない、学びにくい」
うーんと、まだ解らない。
私には情報が足りない。
質問を続ける。
例えば、虎が襲って相手をひっかくのは?
K先輩「無作為、自然な動き」
例えば、飛行機が飛ぶのは?、あれは人間が作った機械ですよね?
K先輩「無作為、自然な動き、自然の法則に則った動き、
不自然な動きだったら飛べない、墜落しちゃう」
ああ、そうか、
少し解ってきた。
じゃあ、船の舳先の形、あれも無作為で、自然なんですね?
K先輩「そう、でなければ、海という自然の中で、進むことが出来ない」
ああ、はいはい。
解ってないけど、解りました。
さて、もし同じ武術の練習会に通っている生徒でこれを読んでいる人がいたら、
(私より上級の人は必要なし)
クイズです。
私は何が解ったのでしょうか?
私の質問自体には、何が込められていたでしょうか?
ちなみにこのクイズの意義は、
『私の思考の持って行き方』
の説明のため。
私の思考レベルはこの程度です、というぶっちゃけ恥さらしですが、
まあ、一応参考にどうぞ。
一応読む前に、一つ前の、
答え。(さっさと書きます)
まず、K先輩の言葉が間違いなく真理をついているのは『何となく』わかった。
で、K先輩がどのように解析したか知りたかった。
質問内容。
「虎が襲ってきて引っ掻くのは作為か無作為か?」
象形拳の元になっている動物の動き。
動物が、相手をどうこうしようとする動きに作為があるかどうか知りたかった。
(人間が相手をどうこうしようとするのは作為があるから)
「飛行機が飛ぶのは作為か無作為か、自然か不自然か?」
人が目的を持って作った物に、無作為・自然があるかどうか知りたかった。
で、質問の意図。
K先輩の答えは最初っから解っていた。
ただし、理由をどう答えるかに私が理解する為のヒントがあると思った。
答えが最初から解っていた理由。
『私が質問した内容が、全て、師匠が武術の技術で、
生徒にこうしなさいと指導するときの例をそのまま引用しただけだから。』
K先輩は、暫く田舎に戻っていて、
こちらの練習会にきていなかった。
師匠の技術は全て『無作為にして自然』なのだから、
当然ながらその指導内容を引用すれば、
答えが無作為にして自然になるのは解っている。
(要するに私は参考書持参)
ちなみに、虎が~の件は、
『螳螂が蝉を捕獲する動作は自然か?』と同じ意味と考えていただいて良い。
ちなみにK先輩は、普通に考えて、普通に答えを導き出していた。
しかも理由が整然としていた。
答えを聞いた私が、
「うわ~、完全に解ってるわこの人!!」
と、唖然としたのは言うまでもない。
で、私が今回得たことは。
『師匠の指導は、生徒の持つ作為的で不自然な部分を、無作為で自然なものに変える
為の方法論である』
と言うこと。
例えば、有る技術の最後の部分、
相手の手を持ってヒョイと下に振る動きを、
師匠「バスケットボールのドリブルの時の要領で」
と、指導された。
これは、
『相手の手をヒョイと振る』のは作為的、不自然、
相手を無視して、ドリブルの動きをするのは、(この場面において)無作為・自然
と言うことである。
さて、ここまで一生懸命読んでいただいて申し訳ないが、
恒例の、がっくりくる一言を。
『結論は、師匠の言ったとおり、と言う話。』
(はい、いつも通りですね♪)
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥orz
なかなか師匠の言うとおりにできない私には有益な出来事だったりしますが。
(毎度毎度、私は『漁夫の利』が多い。)
結局の所、武術で学ぶことは、
「相手に干渉するためには、相手を無視しなければならない」
という矛盾と、
それをどうやって乗り越えるか、ということである。




