080 A先輩の話ー2
A先輩が40点をたたき出したとき、
やったことは中国武術における姿勢の十訣。
その内の
『虚領頂勁』
『沈型墜肘』
のたった二つ。
そして、これはただ背筋を伸ばし、肩と肘を落とすことではなく、
頸椎が脱臼するほど脳天を上に引き伸ばし、
肩が脱臼するほど、下に引き下げることであった。
そこまでやって、
身体が悲鳴を上げるほどにやって、
漸くOKになると解かった。
甘かった、
甘すぎた。
やっていなかった。
その身体でA先輩が私に
技を掛けると、
痛みも衝撃もなく簡単に崩し倒す効果を出した。
そして同時に、こちらからの技は効かなくなった、
普通の状態で技を掛けようとすると、
A先輩には絶望的に技が掛からない。
ただ、師匠はやっぱりA先輩に普通に技を掛け、
崩していく。
何故だ?
(当たり前だが、どうやって?)
まず、A先輩に、何故技がかからなくなった?
そしてその相手をどうやって崩し倒す?
これまた、居残りで研究を始める。
私「これって、すごい身体を引き伸ばしますよね」
A「そうだね」
私「これって、伸筋抜骨ですか?」
A「そうかもしれないね、本で紹介されたように肩を前に出すだけというのと、脊柱全体を思いっきり上に向けて引き伸ばすのを比べれば、こちらに真実味がある。」
で、何故この身体に技がかからないか?
太極拳の起勢式を使った崩しで、
普通の身体と、伸筋体(仮称)を比較。
私でも伸筋体を作ると、
A先輩の今までの崩し方ではかからなくなる。
私「普通の身体では、身体がぐにゃぐにゃと揺れて崩れる感じで、伸筋体で受けると、身体が全く揺れないので掛からないです」
A「身体が、きっちりと締まって隙間がなくなって剛体化するからか‥‥‥」
私「なんか、外骨格みたいですね。」
A「‥‥‥‥そうか、外骨格の生物は昆虫だから『螳螂拳』昆虫の拳法か!」
伸筋体に今までの技が掛からなくなった理屈はわかった。
では、伸筋体の身体にどうやって技をかける?
ちなみにその頃、
私は練習会中に、
伸筋体を使って相手の技を受けるようにしだした。
私の体重もあいまって、
かなり相手の技が掛かりにくくなった。
(私の体重が『効く』ようになったのは、この頃からのはずである)
私への技の掛かりが悪くなったので、
相手をした一人は、
「最近俺、調子悪いなー」
と、ぼやいていた。
A先輩がそれを横目で見ていて、
後に一言。
「真実とは違う方を選択するな~。自分の調子が悪いんじゃなくて受け手の難易度の方が上がったのに」
と言った。
次の練習会の終了後、またA先輩と残って夜の公園で伸筋体の研究。
A「一応。理屈はわかった、問題は、その身体をした相手をどうやって崩し、倒すかだ。」
私「これが伸筋抜骨じゃないかって話をしましたよね。」
A「うん」
私「本によると伸筋抜骨の次は『五行の気』ですよね、何かアイデアありませんか?」
A先輩はしばらく考え込み、
「ちょっと、実験やらせてくれ」
と言った。
伸筋体をして、普通の技が掛かりにくくなった私に、
ひょい、と技がかかった。
これまたあっさりと。
私「何をやったんですか?」
A「まずこちらも伸筋体になる必要がある。
身体を剛体化して、外骨格状態になっている。
固まっているから、波のような身体がうねる動きは出来ない。
でも内臓は動く。外骨格でも、水袋を鎧で囲った様なものだから、
体内の水に浮いている内臓は動かせる。
五行の気の手足の方向に合わせて、対応する内臓を動かしながら技を掛けた」
両手を前に出す動きは、鎧の『中身』の肺を前に出すように、
手を横に出す動きは、鎧の『中身』の肝臓を横に動かすように、
そして、私もA先輩に技をかけてみる。
(当然、A先輩は少し、受けの難易度を下げている)
すると、
私の技が、A先輩にかかった。
A「よし、しばらくこれで行ってみよう!」
ここで解かったことは、
『リラックスは間違っている』
(注意・この内容は10年前の記録から転載している)
全身に鋼の外骨格を纏ったように、
身体を一枚に『固める』
そして、中身の内臓あるいは水分を使う----
ということであった。
A先輩の怒濤の進歩を見て、
仲間内の一人が相談をしてきた。
「俺も結構長くやっているけど、全然伸びない、どうすれば良いんだろう」
A先輩は少し考えて、ペットボトルを手にとった。
A「このペットボトルの固い部分が身体、身体をこういう状態にする、
中身のジュースが内臓、これを動かす」
秘密にしていたのを教えてしまった!!
驚く私。
黙っていれば有利なのに、口に出してしまった!
しかし、
彼は、
「あ、流体力学ですね、どこそこの本で読んだんですけど、流体力学にはこういう特徴が有って‥‥‥‥‥‥」
と、自説を語り出した。
せっかくA先輩が秘密をばらしたのに、
それを横に放り出した!!
自分の講釈を語ってどうする!?
それは、
その行為は、
師匠に対して得意げに武術の奥義の講釈をたれるのと同じ。
でも、私は知らない振り。
あの技術を真似されたら、
私も僅かながら持つ有利を失う。
後に、稽古会のアフターで、
師匠にそれをA先輩が話した。
A「なんで、せっかく教えたのに、それを放り出して遠くに言ってしまうんでしょう?、
わざと遠ざかっているように見えるんですけど」
師匠は、コンビニのパンを噛りながら言った。
師「何言ってんだ、ちょっと前のお前もああだったぞ。」
A「‥‥えっ?」
師「三段論法ってな。『僕はこうでこうだから出来ないんです』って言って、
教えたことに手を付けようともしなかった」
A「あれは、僕の昔の姿だったんですか‥‥‥‥」
師匠は私を指差して、
師「お前の今の姿でもあるんだぞ!」
と言った。
どーん!
と師匠は笑うセールスマンの様に指鉄砲 を私に撃った、、




