072 たったそれだけの事で
たったそれだけの事で
大分前の事、
師匠とプロトコルが合わなくて、
中々に師匠の言う通りに出来ない状態が続いていた時、
型がちゃんと出来ているかのテストをする。
師匠なら見るだけで分かるが、我々生徒の側は分からない為である。
型の動作をやり、
終わった体勢を保持、
其処で相手に拳先を持ってもらい、
型がちゃんと出来ていれば、
拳を動かすと相手が崩れる。
と言う内容で、
当然の如く上手くいかない。
其処で師匠がこう言った。
「失敗したら相手にジュース一本奢れ。冗談じゃ無くて、師匠命令な」
次の瞬間、成功した。
同じく、他の出来ていなかった生徒も、成功する。
横で見ていて、掛け手の動きが、
明らかに正確になっている。
私「‥‥‥何でですか?」
師匠「これがメンタルの怖い所。
たかだか150円のジュース一本を損したく無い為に、
ちゃんと動くようになった。」
で、この条件を外すとまた出来ない。
師匠「余りやるなよ、そのうちその条件でも出来なくなるから。」
よく考えろ、と師匠が言う。
「たった150円出して出来る事が、
何も無しだと出来なくなる。
お前らは、150円分の真剣さが足りないだけなんだ。」
出来る者と出来ない者の差は150円。
そして中古で購入した、たかだか2万円のモデルガンに込められた以前の持ち主の執着心。
それだけで、自身の動きがレベルダウンして仕舞うのも頷ける。
たったそれだけの事で、
良くもなるし、
ダメにもなる。




