133 マイナスの力
沖縄空手のW師範の提唱している技術には、
『0の力』『0化』というものがある。
片や、八卦掌には、
『マイナスの力』という技術がある。
呼び方は師匠のオリジナルであり、
正式名称は判らないとの事。
劇画『拳児』に於いて、劉月侠の八卦掌を体験した拳児が、
大東流合気柔術の佐上幸義師範を思い出したと発言したシーンがあるが、
おそらくは原作者の松田隆智師範が劉雲樵公の八卦掌を体験して佐川師範に似ていると感じた事を元にしていると考えられる。
もしかすると、このマイナスの力が、佐川合気に近いのかもしれない。
師匠の話では、
化勁が相手の出して来た力を吸収して返す力であるのに対して、
マイナスの力は、
相手の『出してもいない体内の力』を、能動的に吸い取ってしまう技術との事。
試しに喰らってみると、師匠を握った手を離す事も出来ず、
掃除用のモッブよろしく稽古場の畳の上を引きずり回された。
これ自体は、
ここの稽古会では、『良くある事』なのであるが、
問題は打撃である。
今まで師匠が見せてくれたこの手の『力抜き』の技術は、
打撃への応用が極めて技術的に難易度が高く、
師匠ですら、止まっている相手に打撃するのがやっとであった。
(但し、食らった相手は、分厚い防具の上からでも拳児の田英海よろしく地面をのた打ち回る羽目になる)
しかし、マイナスの力は、
ほぼ普通に、打ち合いの最中に出す事が可能であった。
ちなみに私は出したパンチの腕を横から掌ではたかれたが、
洒落にならない程痛かったりした。
面白い事に、普通掌ではたかれたら、
その部位の皮膚は、
輪郭が曖昧に赤くなるものであるが、
今回、私の腕の皮膚には、
まるで印鑑で押した如く、指の形まではっきりと認識出来るクッキリハッキリした跡が残った。
因みに、二日後、私の腕には真っ黒な痣が発生。
………張仁忠から『救命膏』でも貰っておくべきだろうか?




