八月二三日⑨
酒屋を出ると電話が鳴った。東原からだった。
「本橋? 保険金の支払いなんだけど、明日再手続きをして、来週月曜日には相手先口座に振り込まれることになったわ」
「明日? 急だな。もう少し先になるはずだったんじゃないのか?」
「ええ。だけど今日の午後、白岩から電話がきたの。私が二時間位対応したんだけど、結局その後もう一度署長を出せって電話がかかってきてね、対応した副署長が平身低頭で謝罪して、明日最優先で対応するって約束しちゃったのよ」
「陣内範子を装っていることは指摘しなかったんだな」
「我慢したわよ」
東原の声色は疲れ切っていた。
「よくやった。しかし、圧力に簡単に屈するなんて、副署長は相変わらず……」
「クズよね」
東原が言葉を挟んだ。本橋は苦笑いした。
「実はさっき陣内さんの友人だった梶原さんという人と話していたんだ。梶原さんも彼の死に納得できなかったらしくてね、黒本組に潜入して白岩に女がいることを突き止めたんだ」
「まさか、その女が自称陣内範子?」
「残念ながら確認できなかった。梶原さんは、白岩とその女の後を尾行したのがバレて暴行されたんだ」
「あなたその梶原さんを病院に運んであんなに血だらけになってたの?」
「そうだ。幸い命に別条はないらしい」
「よかったわね。ねえ、保険金支払いのこと、桐生刑事に知らせておいたほうがいいんじゃないの?」
「連絡しておく」
本橋は電話を切ると、桐生に電話をかけた。
「本橋だ。明日保険金支払いの再手続きをとることになった。来週月曜日には引き出せるようになる」
「予定より早いんじゃないか?」
「事情があってな」
「そういえば、今朝の件どうなった?」
本橋は、東原にした話を繰り返した。
「了解した。うちの課長に話をしたら、興味を示していたんだけどな。一度終わった事件だから、捜査体制がすぐに整いそうもない」桐生の口調は重かった。「とにかく、何か手がないか考えてみる」
「任せたぞ。よろしく」
本橋は電話を切った。




