八月二三日⑦
「大丈夫か?」
本橋がそっと話しかけると、梶原は弱弱しく微笑んだ。
「悪いな。迷惑はかけないって約束したのに」
本橋は、壁際からパイプ椅子を引きずってきてベッドの右脇に座った。
「一体何があったんだ?」
「実はあの後、ホームレス仲間のつてを使って黒本組の作業員として採用してもらったんだ。怪しまれると困るから、ジンさんの知り合いっていうのは黙ってね。それで白岩という男の素性を探ろうと思ったんだけど、昨日奴が突然トンズラしようとしたものだから、少し慌ててね。最後に下手打って、嗅ぎ回るんじゃねえって殴る蹴るの暴行を受けてこのザマだ」
「下手打ったって?」
「あいつねイロがいたんだ。小岩駅の近くの『すみれ』っていうスナックに勤めているホステス。……白岩が使っていたその店のライターに電話番号が刷られていたから、電話帳で住所を調べたんだ」梶原は天井を見ながら、とつとつと話した。「そこで待ち伏せして、後をつけていけば奴のヤサがどこかわかるんじゃねえかって思ってたんだ」
「尾行なんて、テレビみたいに上手くいかないだろう」
梶原はフッと笑った。
「そうだよね。オレもそう思って、実際にやるつもりはなかった。……だけど奴が辞めるっていう噂が寮に広がってさ。他にいい考えも浮かばなかったし、とにかくいなくなっちまったら後の祭りだと思ってね。……仕事休んで夕方電車に乗って『すみれ』の近くで張り込みしてたんだ。……そしたら十時過ぎに白岩の奴が店に入って行ってさ、そこからまた三時間待ってたら、案の定、女と一緒に店を出て行った。タクシーとか乗られたらどうしようって、その時になって心配になったんだけどさ、運良く二人で近くのコンビニ寄って色々買い込んで歩き始めたんだ。そのまま十分位尾けて行って、これはうまくいくんじゃないかってほくそ笑んでいたらさ、突然髪の毛を後ろに引っ張られて倒されて、何人かに散々蹴られた。それが止んだと思って見上げたら、白岩が仁王立ちしていて、『お前最近入った奴だよな。なんでオレを尾けてた。』ってつま先でみぞおちを蹴り上げられたんだ」
梶原はその時の痛みを思い出したように顔を歪めた。




