八月八日⑥
端末が起動すると、新規メールが届いているとのメッセージがポップアップした。メーラーを起動すると、メールのリストが表示された。新規メールは、それとわかるよう太字で表示されていた。
件名 (相談受付システム)新しい相談が投稿されました。
本省では、数年前に労働相談をネットで受け付けるシステムの稼働を開始しており、投稿があると、システムが自動的に該当署の職員のメールアドレス宛に内容を配信する仕組みになっていた。
クリックすると、リストの下部ペインに内容が表示された。
[事業場名]ジアス人材派遣
[事業場の所在地]東京都杉並区のどこか
[あなたのお名前]とくめい
[あなたのご連絡先]
[ご相談内容]
派遣労働者として、FPサービスという渋谷区の会社で働いているが、そこでは本
人の希望も聞かずに一方的に残業させる。前の派遣先では、残業したいか希望を聞い
てくれた。残業を一方的に指示するのは、おかしい。派遣いじめだ。監督署は何でそ
んな会社を放置しているのか。おかしい。派遣いじめだ。
残業は元々命令されるもので、労働者の希望や都合でできるものではないのに、と本橋は思った。その一方で、命じられるままに長時間残業し、給料に残業手当が含まれているという説明を鵜呑みにして、タダ働きしている労働者もいる。「戸橋さんは、どう対応するのかな……」相談メールへの対応は、筆頭ヒラの第一方面の戸橋が担当だった。戸橋の方を見ると、いつものように冷静な目で端末のディスプレイを見つめていた。




