八月二〇日⑤
「どうでしたか?」
本橋が自席に戻ると、鈴木が近づいてきた。他の皆も気になっていたのか、顔を上げて本橋の方を見た。
「斎城三主任が完膚無きまでやっつけてくれたよ」
「良かったですね」
斎城は、ついさっきの話が随分昔の話であったかのようにそ知らぬ顔で書類を眺めていた。斎城は依元の電話番号が間違っていたことに確信を持っていたのだろうか。それとも一か八かの賭けだったのだろうか。もし後者だったとしても、斎城にはあの交渉の必勝パターンを用意していたはずだ。決して媚びることなく、しかし最後まで相手の面目を潰さない、斎城の巧者ぶりに本橋はただ感服するばかりだった。
皆が胸を撫で下ろしていたその時、杉田副署長が近づいてきた。
「斎城君。さっきのが例の人物かね。どうだったんだ」
「無事理解していただけました」
「ちゃんと報告してもらわないと困るよ。こっちも管理者として気を揉んでたんだから」
斎城に全てを丸投げしたくせに、とそこにいた一同が不愉快な気分になった。
「報告が遅くなり申し訳ありませんでした。ちょうど今、報告に上がろうと思っていたところでした」
「まあ、穏便に済んだのだったらいいよ」
「いえ副署長。穏便にではありません。きちんと理解していただけました」
「何が違うのかね」
怪訝そうな顔をする杉田に、斎城が朗らかに微笑んだ。
「さあ、どうでしょう。人によっては瑣末な違いかも知れませんね」




