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八月八日③

 ビルの前の都道四号線は、いつものように渋滞していた。淀橋から神田川を見ると、何日も雨が降っていないせいか、水が殆ど無かった。橋を渡った先にある通りをしばらく歩くと、左側の路地からプアーという車のクラクションが鳴っているのが聞こえた。黄色のマスタングが停まっているために、路地から出られない旧型のブルーバードがイラつくようにクラクションを鳴らし続けていた。周辺の民家の窓から住民達が迷惑顔を覗かせていたが、肝心のマスタングのドライバーはいないようだった。どうしようもないことなのに、暑さのせいでイラついているのかもしれない。その本橋本人だって、全く関係の無いクラクションにイラつきを感じていた。普段は他人事だとすませてしまい、関心も持たないのに。

 路地を通り過ぎて間もなく、背後でキキキキというタイヤのスキール音が聞こえた。振り向くと、ブルーバードが鼻先をマスタングのリアにのめりこませて、押し出しているのが見えた。ギアをパーキングに入れただけで、サイドブレーキを引いていなかったのかも知れない。マスタングは殆ど抵抗する様子も無く、ブルーバードに押されるがままに前進して、やがて道路に出た。ブルーバードは車体を揺らしながら乱暴に走っていってしまい、マスタングは道路を塞いだまま取り残された。

「やれやれだ」本橋は思った。「多分、それも暑さのせいだ」

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