七月某日②
「カジさん、オレまたしばらく現場はいろうと思ってるんだわ」
ジンさんの何気なく発した言葉に梶原は驚き起き上がった。
「現場見つかったの?」
「前働いてたとこの社長から声かかってさ。何か、娘の居所が判ったなんて、わざわざ探しに来てくれたんだ」
「いい社長じゃない」
「だけど……」梶原の予想に反してジンさんは複雑な表情を浮かべた。「あの社長、そんな面倒見いい人でもなかったからちょっとビックリしたんだけどね」
「ビックリって、娘さんの居所分かったことの方がビックリじゃない」
「そうなんだよ。どうやって社長が探したのか判らないけどさ。で、社長がお前も少しはちゃんと稼いで金でも送って娘孝行したらどうだって、何回も言ってくれてさ。宿舎も用意してくれるって言うし……」
躊躇いがちなジンさんの口調に、梶原は同じホームレスの自分に対する気遣いを察した。
「頑張りなよ。オレもいい加減仕事始めようと思ってたところだしさ。ここもいずれ役所が強制退去始めるよ」
ジンさんは、少し安心したように微笑んだ。
「そうするよ。オレも女で失敗してカミさんと離婚して娘には苦労かけただろうしな。少しでも罪滅ぼしになればと思ってるよ」
「乾杯しよう、乾杯」
梶原は買い置きしておいたワンカップをカバンから取り出し、ジンさんと並んで座った。タバコを咥えると、ジンさんがライターで火を点けてくれた。
「カジさんもまだ若いんだから頑張れよな」
「ああ。もう労災の休業補償ももらえないしな」
「労災もらって怠け癖ついちまうなんて、もったいないことしたな」
「ジンさんも女に狂わなきゃな」
「そうだな……」
二人は路上に座ったまま、雑踏を見ながらタバコをふかした。
翌日、ジンさんは去り、約二週間が経った。




