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八月八日⑯
「そこなんですよ。足場の側方って、その交差筋交いとかいう金属棒が取り付けられていただけのように記憶していたんですが、今はこんなベビーベッドみたいにしっかりした柵を付けてるんですね。実は、昨夜からずっと全員八階で鉄筋を組む作業していたらしいんですけど、被害者が、今私達が使った足場の階段を降りていくのを、作業員のうちの一人が目撃してるんです。下の方では作業していなかったから、おかしいと思ったらしいんですが」
本橋はしゃがんだまま、桐生の話を手帳に書き取った。桐生は続けた。
「そして、被害者はここから墜落したと思われるんですが、この柵でしょ。ここから墜落するなんて、ありえますか?」
「普通は考えられないでしょうね。交差筋交いしか無かったときは隙間から墜落したりする事故はありましたが」
「ですよね。そこが解らないんですよ。解らないな……」
桐生は手すり枠を掴みながら、最後は独り言のようにつぶやいた。
側方をネットで囲われた狭い足場上は、炙られるように暑く、ヘルメットの中から額へ汗が止めどもなく流れ落ちた。




