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八月八日⑨

 本橋と東原は同期だった。最も、監督官は最初の七年間で二つの労働局で勤務した後、最終勤務局に赴任することになっているので、二人が知り合ったのは同じ品川署に配属になった二年前だ。いつもひっつめ髪でさばさばした性格の東原は、以来本橋の良い飲み友だちになった。

「楽しい事でも考えなきゃ乗りきれないわよ。じゃあね」

 自販機からミネラルウォーターのペットボトルを取り上げて、それをうなじに当てながら、東原は出て行った。

 そのとき、館内放送のスイッチが入り第一方面主任監督官の楠瀬の声が流れた。

「労災発生。監督官と技官は直ちに会議室に集合」

 会議室には、監督官一三人、技官三人が集まっていた。前には副署長の杉田と第一方面主任の楠瀬が座っていた。全員集まったのを確認した楠瀬が、手元のメモを見ながら言った。

「本日、午前六時三〇分に仮称Mビル新築工事現場で、作業中の鉄筋工が墜落する労災が発生した。被災者の氏名は陣内一雄、六二歳。消防隊員が現場で死亡を確認。死因、所属会社などの詳細は不明。警察も一報を受けて現場検証に入っている様子。当署も午前九時三〇分から災害調査を実施することを元請会社に連絡済み。メンバーは時任監督官、田仲専門官、本橋監督官、鈴木監督官を予定。主担は時任監督官。各方面主任監督官と安全衛生課長はメンバーの予定を確認し、スケジュール調整してください」

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