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八月八日⑧
本橋は、机から株式会社木田サービスの申告処理台帳のファイルを取り出し、休憩室へ向かった。
コーヒーサーバーからカップに熱いコーヒーを注ぎ、窓枠に寄りかかりファイルに目を通していたところに、労災第一課配属の事務官の東原楓が「おはよう」と言いながらやってきた。労災課は、俗に労災保険と呼ばれる、仕事に起因する怪我や病気に対する治療費や休業補償を行う保険の調査などを行う部署だ。ある程度の規模の署になると、指揮命令系統に応じて一課、二課と分けられていた。
「全く毎日暑くて嫌になっちゃうわね」
自販機にコインを落としながら、東原が独り愚痴った。
「いずれ秋がやってくるさ」
書類から目を上げずに本橋は言った。
「今日、仕事終わったら冷たいビールでも飲みに行かない?」
「いいけど、まだ仕事始まってもないぜ」




