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八月八日⑦

 本橋は、上着の内ポケットから携帯を出し、一日のスケジュールを確認した。

   九:〇〇~一〇:〇〇 株式会社木田サービス(申告監督)

  一〇:〇〇~一一:〇〇 有限会社ヤスミ(是正報告)

  一一:〇〇~一二:〇〇 大城雅子(相談)

  一三:〇〇~一七:〇〇 株式会社安田人材センター(臨検監督)

 監督官は、殆どの業務を単独で遂行する。大規模な事業所の調査は複数人で行うことがあるが、例外だ。新人の頃は放り出されたような気がしたが、何年かするとそれが当たり前になってきて、他の監督官とスケジュールの調整をすることの方が煩わしく感じられるようになった。監督官の主要業務は、臨検監督と呼ばれる事業所への立入り調査だが、これも月初に方面を統括する第一方面主任監督官から割当リストが配布されるだけで、何時実施するのかは各監督官がスケジューリングすることになっている。他にも様々な業務があるが、とにかく一事案一担当制が基本で、スケジューリングに関しては各監督官の裁量が認められている。その代償として、不手際無く任務を遂行するという結果責任が課されている。つまり、「どうするかは任せるが、きちんと結果を出すこと」が至上命題なのだ。困難な事案に遭遇したときには、一人悩み抜かなければならないときもあるが、入省して十年になる本橋も、それが当たり前だと思うようになっていた。

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