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昔話:上下の下

 帰り道、歩道橋の階段を落ちて、首の骨を折って死にました。

 その知らせはその日の夜、電話で全校生徒に知らされました。いや、僕も驚きましたよ。

 翌朝教室に駆け込むと、生徒会の面々がBの周りで悲嘆に暮れていまして、この先どうしたらいのかと。

 いやもう卒業は間近だし、Aがいなければわざわざイベントを探し出して突撃することもないだろうと思って話し合いを見ていましたが、やはりBもAの喪に服そう、卒業まで大人しく過ごそうと、落ち着いたことを言ってました。

 そのあと警察が来まして、生徒会とマドンナグループと、僕に話を聞きたいと言ってきました。

 それって事件性があるってことなのか?と身構えましたが、目撃者が大勢いるので誰かが突き飛ばしたとかそういうことではないと説明されました。

 警察が気になったのは、Aの落ち方なんだそうです。僕の担当になった刑事さんは親切で話し好きだったようで話してくれたんですが、階段で足を滑らせて落ちるのなら、体は上向きになりそうなものですし、足がもつれて落ちたのなら、もつれた側の肩が前に出て落ちそうなものだけど、目撃者の話では、真正面を向いたまま前に倒れて落ちていったんだそうです。

 ええ、何人も見ていますし、検死の結果、顔への傷で落ち方が解ったそうで、どうしたらそんなふうに倒れるのか、調べているんだそうです。

 単純に考えて何か薬物をやっていたか?血液検査でそんなことはないと判明。

 貧血を起こしたか?これも血液検査で鉄分とかに問題はなし。

 音楽を聞きながら歩いていた、ならばテープに変な音が入っていなかったか?再生機械は壊れてしまったけど、テープを再生してみた結果、特に異常はなかった。

「彼は難しい現代音楽を聞いていたんだね」

「それ、ぼくが勧めたんです」とB。(へぇ、現代音楽なんか聞くんだ、と初めて知る僕)

 テープにBの指紋があったのはそれで了解。いくつものCDからAが好きそうな現代音楽を集めて渡したんだそうです。

 何か彼は気にしていたことはないか?いや彼は我が世の春を満喫していたはず。一流大学への推薦入学も決まり、卒業までいくつイベントができるかを嬉しそうに考え、みんな結構疲れていたり受験勉強をしないといけないのに(しょうがないなぁ)とAについて行っていた。

 もちろんAの心の奥底にどんな悩みがあったかまでは解らない。そりゃ何かあっただろう、でもそんな歩道橋でお先真っ暗になるようなことは、なかっただろう。

 みんながそう答えました。

「うーん、家族仲も良好、前途有望、たとえ何か問題が起こっても乗り越えられる力もあるし頼りになる仲間も大勢いる、うーん、やっぱりただの事故かなぁ」

 Aの家族も学校も、Aが誰かに何かをされたのなら真相を明かしたいけど、近くに誰かがいたわけでもない、薬を盛られたわけでもない、光を目に当てられたわけでもなさそうだし、誰かに脅されていたわけでもなさそうだ、だったら変な噂が流れる前に事を終わらせたい、そういうことなんでしょう、警察からの事情聴取はそれ一回で終わりました。

 Aは足を滑らせて落ちた、その落ち方は“そういうこともあるのだろう”。


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