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11 シリアスお肉

 


「色々立て込んでいたというのは何ですの? 何がありましたの?」


「それ……は……」


 言い淀むあの人。

 ですが、もう遠慮はいたしません。

 自分の意見をハッキリと述べる女性が、今は当たり前なのでしょう?


「ブルタンのゴタゴタというのが関係しているのでしょう? 私が誘拐されたのもそれが原因ですか? 私に被害が出てるのです。隠す事なく、全て教えてください」


「……解りました。結婚式の時に出た、怪しい男を覚えていますか?」


「もちろんですわ」


 教会の扉をバーンと開けて、

『そんな男と結婚しないでくれ! 私と一緒に逃げてくれ! 愛しているんだ!!』


 とかわめいていた、人の話を聞かないうるさかった男ですわね。


「その男も誘拐犯も、ブルタンとオルトマンの結び付きを良く思わなかった商売敵によるものです」


 貴族の結婚ですもの。

 そういうのがあってもおかしくないですわよね。


 何でも結婚式乱入男を尋問した所、その男を雇った黒幕が、政治にも関わっている結構大きな家だったらしいです。

 で、あまりにも大きすぎた為どうする事もできず、要警戒で見張りつつ証拠集めをしていたと。


 でも、最初にやる事が結婚式への乱入って微妙すぎません?


「いえ……イレーネ嬢は気がついていないかもしれませんが、あれでオルトマン家は大分大変だったんですよ」


 え?何故?


 まあ、要するに古き良きを重視するお母様が、「まさかの我が娘が結婚前に逢い引きを!? こんな失礼な状態で嫁がせるわけにはいきません!」


 と、だーいぶパニクってたらしいです。

 そんなわけにはいかない、とお父様やお兄様、ブルタンのお義父様やお義母様総出で説得したそうです。


 最後はお義父様の、「イレーネ嬢は素晴らしいお嬢さんです。是非我が家に来ていただきたい」と頭をさげた事によって、娘の嫁ぎ先の当主が頭をさげては断れない。と了承したと。


 で、その後も細々とした嫌がらせはあったみたいです。

 ブルタンのスイーツ店に嫌がらせ。

 取引先に嫌がらせ。

 ブルタン別邸に嫌がらせ。

 ブルタン本邸に嫌がらせ。


 一つ一つはどうって事ない嫌がらせでしたが、何度もあっては困ってしまう。

 そして地味にうざい。


 あの人の帰りが遅かったのも、『イレーネ』作成の為だけではなく、嫌がらせの後始末や対策に追われての事でもあったそうです。

 それなのに、私ったらサリーナ様との逢い引きを疑ったりして……


 どうして、教えてくださらなかったのでしょう?


「……結婚したばかりの淑女に荒事に関わらせるべきではない! って意見に逆らえなかったんですよ」


「……ちなみに、その意見はどなたが?」


 ブルタンのお義父様とお義母様とお義兄様、オルトマンのお兄様とお母様が教えるべきではないと。

 ちなみに、誰よりも強く反対したのがオルトマンのお母様らしいです。


 お母様……!


「それで、トカゲの尻尾切りで実行犯ばかりが捕まり、黒幕には全然たどり着かないまま時間がたっていき、これではいけないとなったんです」


「要するに、面倒くさくなってきたという事ですわね」


 さっとあの人が顔を背けます。

 図星ですか。


「そんな時に、向こうも全然ブルタンとオルトマンの間に楔がうてなくて焦っている。という噂を耳にしたんです。あそこの家は前当主は有能でしたが、現当主ははっきり言って無能です。現当主に変わってから業績も何もかも右肩下がりで、有能な使用人もどんどん流出しています」


 大丈夫ですの、そんな人が政治に関わっているだなんて。


「首一歩手前です。王室の方も免職にするちょうどいい理由を探していましたので、協力する事になったんです。そんな時にあの焦っている噂。なので、私達はエサを撒くことにしたんです」


 エサ?


「もしかして、それって……」


「そう。『イレーネ』の完成披露の知らせです。ウエディングケーキを商品化し、妻の名を冠したケーキである『イレーネ』は、ブルタンとオルトマンを強固に繋ぐ役目をする大切なモノです。それと同時に、向こうにとっては絶対に阻止したいモノ。絶対に食いつくと思いました。ですが……その……」


 あの人が言いにくそうにポリポリと頬をかいております。


「相手が、予想以上のお馬鹿だったというか……イレーネ嬢の誘拐にまで手を出すとは思っていなかったんです……」


 あら、私がエサだと思ったら予想外の出来事だったんですのね。

 意外ですわ。


「まあ、ちまちまとみみっちい嫌がらせばかりをしてきた相手が、いきなり誘拐にまで手を出すとは誰も思いませんわよね」


「本当に、本当に申し訳ないです。怖い思いをさせてしまって!」


 あの人がペコペコと頭をさげます。

 ああ、可愛いですわ……

 お腹が揺れる音が聞こえるようですわ……プルンプルンって。


 私を誘拐したのは依頼された実行犯の男。

 私が誘拐されたのを目撃したエマは、すぐにあの人に連絡。

 ビックリ仰天で報告を受け取ったあの人により、ブルタンのお義父様とオルトマンのお父様へ連絡が。


 そこから王室や騎士団等々に広がり、ブルタンに嫌がらせをしていた無能当主の捕縛劇へと繋がったそうです。


「その当主がやったという証拠はありましたの?」


「いえ、最初はなかったんですが、無能当主が自爆しました」


 無能当主は政治にも関わっていましたから、誘拐報告当初は王室で仕事をしていたそうです。

 そこへ、私の誘拐報告が飛び込んできました。

 その報告を聞いた無能当主は、「ははは! うまくいった、ざまあみろ!! 俺だってやればできるんだ!」と衆人環視の中、大声で叫んだそうです。


 静まり返る部屋の中で響く高笑い。

 その一拍の後、自分がやらかした事に気づいた無能当主は逃走を計りますがあえなく御用。

 尋問により、私の監禁場所等を吐いたので、救出の為に駆けつけた。という事みたいです。


 お間抜けすぎますわ……!!

 いえ、そのお間抜けだったおかげ?で私の乙女の花園は決壊する事なく無事だったわけですが。


 ここまで聞いて、なんとなーく私にもどこの家かが解ってきました。

 確かに、前当主は清廉潔白。私を捨て公に尽くす方でした。

 贅沢はせず、質素を胸とし、私財で孤児院の設備を建て直したりなんだりと。

 私がよく行っていた教会近くの孤児院も、前当主が私財を投げ売り設立した孤児院です。


 その反動なのか、ご子息の現当主はお金に執着する方です。


 だから、ブルタンとオルトマンの関係をぶち壊そうとしたのでしょうか?

 ブルタンとオルトマンは共に商売がうまくいっており、資産は潤沢にあります。


 けれども、喧嘩を売った相手が悪かったですわね。

 ブルタン本家とオルトマン本家は政治には関わっていませんけれども、分家の方や嫁いでいった方々の家が中央や地方政治に関わっていたりなど、関係者はちゃんといますのよ。


 まだ婚約中ですが、ブルタン本家の長兄、お義兄様は、大規模な小麦農家の息女である方と婚約中です。

 この方のおば様が王室の分家に嫁いでおられますので、もう少ししたら王家とも若干の繋がりができますわね。


 ……あら?当主修行中のお義兄様がまだ婚約中なのに、次男とはいえ、私とあの人が結婚したのは大分早かったのでは……?


 疑問に思い、その事も聞いてみる事にします。



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