表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

僕と彼女の混浴大作戦 - 01

「オ、オマエ、その身体は……!」


 驚いたバルデスくんは、僕の身体を指さした。

 その声が少し震えているのは、きっと動揺を隠せない証拠。


「ま、まさか……オマエも女になったのか!?」

「はい、僕も女の子になれるんです」


 真っ赤な顔をしたバルデスくんは、じっと僕の身体を見つめてくる。

 全ての服を脱ぎ捨てた僕は、生まれたままの姿だ。細身で日焼けのない白い裸身。元々男の子らしくなくて、小柄でおうとつが少なくて……だからちょっと恥ずかしい。


「僕は……僕の神羅儀を、ちゃんと知りたかったんです」


 過去に前例のない、誰も知らない謎多き神羅儀。その使用は禁止されていたけれど、使いこなせるようになりたかった僕は、毎日の鍛錬を怠らなかった。

 すると――どうすればこの力を使いこなすことができるのか。他の流派の神羅儀と同様、教えられずして自然と神権機能(ファンクション)が脳内に浮かんだのだ。


「再び神羅儀を発動させて、左胸に『右手』を当てれば戻れます」


 僕の神羅儀宿る『悪魔の左手』に対し、発動後に『右手』を使えば元に戻る。つまり僕は、僕の神羅儀で自由に、人の性別を変更させることができる。


「それってもしかして……!」

「はい、もしかしたらバルデスくんを男の子に戻せるかも知れません」

「なっ、なんでもっと早く言わねぇんだよ!」

「この神権機能に気付いたのは、今回の遠征中のことでしたので」


 バルデスくんと僕は、真剣な表情でじっと見つめあう。

 神羅儀の神権機能(ファンクション)とは、自らの神権水準(レベル)が上がれば、自然と身につく能力(スキル)である。恐らくは、一年間の鍛錬と今回の遠征による旅の中で、僕の神権水準のステージがひとつ上昇したのではないか。

 その仕組みを知るバルデスくんは、それ以上に僕のことを責めはしなかった。


「機会を見つけてお話ししようと思いましたが、今日になってしまいました」

「それをちゃんと教えてくれたのは、オマエの善意だな……」


 僕の言い分をちゃんと理解して、バルデスくんは深い溜息を突いた。

 多分……昔だったら、こんなにすんなりと納得してくれなかったはずだ。二人で一緒に過ごした一年間が、僕たちの距離を縮めてくれたのだろう。


「それに、バルデスくんの信奉するバッソ神は……」

「うっ……ううっ!」


 僕がそう云うとバルデスくんが唸った。その行為の意味に気付いたからだ。

 何故ならば、バルデスくんの神羅儀・剛神来殻(ごうしんらいかく)の戦神・バッソは、教義として他人に左胸を触らせることを是としない。

 戦神の領域である戦場で、相手に心臓のある左胸を突かれることは、死を意味するからだ。だから戦神・バッソの信奉者が、左胸を触らせることができる者は――


「信愛する親族、もしくは婚姻を結んだ者のみ……ですよね?」

「そ……そうだ、うん」


 この戒律を破れば、神罰により神羅儀の剥奪もあり得ると云われている。

 だから僕も、右手で左胸を触らせてください――とは、云い辛かった。そんなことを唐突に云い出せば、バルデスくんも戸惑ったに違いない。

 それにバルデスくんを男の子へ戻すためとはいえ、まるで愛の告白のようだし。


「と、とにかく……しばらく考えさせてくれ」


 バルデスくんの胸を触ってしまったら、もうどこへも戻れなくなりそうな、漠然とした不安。今の僕ら二人の形が、壊れてしまいそうでちょっと怖い。

 それはバルデスくんも同じようで、表情の中に躊躇いが垣間見えた。


「ではとりあえず、今日のところはお風呂へ入りませんか?」

「お、おう。い、今は、女同士だしな。え、遠慮する必要は、ないんだよな?」


 何故かおどおどとした疑問形で、バルデスくんが僕に訊ねる。


「バルデスくんさえ許してくれれば、僕は構いませんよ」

「そ、そうだよな、オ、オレたちっ、女同士だもんなっ!」


 意を決したようにそう云うと、えいやとばかりに服を脱いだ。

 威勢よく服を脱いだバルデスくんだけれど、こそこそと小さなタオルで身体を隠す。身体の全てを曝け出すのは、まだ少し恥ずかしそうだった。


「こ、こっち、見ないでくれよ……」


 自信なさげに告げるバルデスくんは、裏腹に凄くグラマラスな身体つきをしている。小さなタオルでは隠し切れないほど大きな胸は、はち切れんばかりに溢れ出そうだ。

 大きくて形のいいお尻は、筋肉質だけれどむっちりとして小さく震えていた。

 僕の細くておうとつが少ない身体の、どこもかしこも未成熟な様子とは全くの正反対で、真逆の性格であることを、まるで身体で表現しているみたいだ。


「オマエは、その……平気なのか?」

「はい、平気です。バルデスくんですから」

「……あっ!」


 僕は手を伸ばすと、途惑う彼女の手を取った。

 そのままそっと手を繋いで、浴室へと誘う。


「う、ううっ……」


 身体を隠しているとはいえ、バルデスくんはとても恥ずかしそうだ。

 けれど嫌がる素振りは見せず、僕の後へ素直についてきた。きっと諦めがついたのだろう。もしくは――女の子の姿になった僕を、認めてくれたのだろうか。


「オレ、女の子とお風呂に入るの、初めてなんだよ」

「バルデスくんだって、女の子じゃないですか」


 浴室に二人、手を繋いだまま。穏やかに笑って僕は答える。

 僕がバルデスくんの手を引いて先導するなんて、初めてのことだった。


「そうは云ってもよ、オレは去年まで男だったんだぜ……誰かさんの所為で、オレは女にされちまったけどな!」


 そう口を尖らせるバルデスくんは、恨めしそうにいつもの台詞を云う。

 けどそういうことを云ってると、また酒場の時みたいに勘違いされちゃうよ?


「女になってから、誰にも裸を見せたことなかったんだぜ」

「では、それも僕が初めてなんですね」

「そ、そうだよ……」

「僕はバルデスくんの初めてを、いっぱい貰ってしまいました」

「ばっ、ばっかやろぅ!」


 そんな会話を弾ませながら、洗い場で身体を流す。

 するとバルデスくんの気持ちも、少しずつ解れてきたようだ。


「くあぁ、生っきかえるぜぇぇーっ!」


 身体を洗って湯船に浸かったバルデスくんは、気持ち良さげに伸びをした。

 元々は男の子だったせいか、ちょっとおじさんみたいな台詞だ。けれど今日ばかりは、僕もその意見に同意だった。長かった遠征の疲れが、徐々に洗い流されてゆく。

 女の子同士で入った初めてのお風呂。二人の間の緊張感もようやく解れ、徐々にのんびりとした時間が流れ始めた――その時だった。


「……! 誰か来る!」


 野生の勘鋭く、バルデスくんが静かに叫ぶ。


「ヤバい、俺の後ろへ隠れろタクミ!」


 バルデスくんの入浴時間に、僕が一緒に居るのはマズいことだ。

 僕は慌てて湯船の給湯口裏へ身を潜めると、それをバルデスくんが背中で隠した。


「おや、こんな時間に入浴とは珍しい」


 湯煙の向こうから現れたのは、瀟洒な金髪を持つ偉丈夫。

 一糸纏わぬ姿で僕らの前へ立ち、低く整った声を掛けてきた。


「ふぎゃーっ、オ、オマエは……!」


 そう――僕の幼馴染で、女から男に変わったマルスさんだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=855140108&s  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ