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疾風の盗賊団を追え - 03

 再び名もなき街へと降り立った僕たちは、大通りを避けて裏道を進む。

 前回遠征時に大暴れしたせいで、盗賊団に面は割れてしまっているに違いない。今回はこの街の人々と同じように、軽く布を巻いて素顔を隠す。

 特にバルデスくんは念入りに。よく目立つ赤基調の外套(コート)にショートパンツから、上下黒基調の革ジャケットとロングのスリムパンツに着替えを済ませてある。


「でもその恰好……ちょっと目立ちませんか?」

「そう云われてもよぅ、体形はどうしても隠せねぇんだよ」


 形の良いバストから引き締まったウエスト、丸みを帯びた大きなヒップ。バルデスくんはナイスバディすぎるせいで、あまり変装の意味がないような気がする。

 僕はと云えば――特に何の変哲もない旅人用の皮鎧に、安物の平凡なズボン姿だから、何の違和感もなく街に溶け込んでしまった。それはそれでちょっと悲しい。


「それにしても……まいったな」

「どうかしましたか?」

「ちぃっとばっかし、胸がキツくなっちまった」


 バルデスくんが胸を気にして、襟元を少し開きつつ呟く。大きくて形のいい彼女のバストは、学院内でも女子から羨望と嫉妬の眼差しがよく突き刺さっている。


「また大きくなったんですか?」

「お、おう……ま、まぁ鍛えてっからな!」


 とか云って誤魔化しているけれど、乳腺がまた発達したに違いない。

 最近、妙に身体にぴったりとした服をチョイスしていると思ったけれど、もしかしたらバルデスくんの身体は、更に女性化が進んできているんじゃないだろうか。


「うっし、そいじゃ虱潰(しらみつぶ)しに当たっていくか!」


 気を取り直すように、バルデスくんが気合を入れた声を出す。

 余計なことは云わぬよう、僕は「はい」とだけ返事をして後に続く。


「大通りの方は、結構人通りがありますね」

「それがちょっとばっかり厄介だな」


 廃れた街とはいえ、その場所に生活がある以上、店は少なからず存在する。

 それは露天商立ち並ぶ怪しげな商店街だったり、ほったて小屋みたいな安宿だったり、法外な値段で売りつける薬商だったり、粗雑な食事を出す食事処だったり様々だ。

 その中でも前もって得た情報で、盗賊団の連中が数多く出入りしている場所を、ひとつひとつ丹念に調べ上げていく。それがバルデスくんの立案した作戦だった。


「本来なら色んな作業を、分担して当たれるんですけれど」

「仕方ねぇよ、何せオレとオマエしかいねぇんだからさ」


 魔法学院の規定では通常、四人パーティで実地課題(クエスト)に挑む。

 しかし落ちこぼれで謎の神羅儀を持つ僕と、男だか女だか分からない嫌われ者のバルデスくんでは、チームを組めるほど仲良くしてくれる仲間がいない。


「あん? なんか云ったか?」

「ううん、何でもないです」


 だからいつだって二人きりで行動するしかない。それはそれで幼馴染同士とても気楽だけれど、みんなよりも倍の作業が必要になるから、毎度毎度苦労の連続でもある。


「四人パーティで『四大分類』がハッキリしてりゃ、楽なんだがなぁ」

「ええ、そうですね」


 バルデスくんの云う『四大分類』とは、神羅儀の特性を大まかに分類したものだ。

 主に『攻撃系』『守備系』『補助系』『生産系』の、四種類の能力である。


 バルデスくんの剛神来殻(ごうしんらいかく)は、第五級攻撃系神羅儀。

 マルスさんの神羅煌揮(しんらこうき)は、第三級補助系神羅儀。


 この分類と特性をしっかりと把握することで、パーティをバランスよく形成する。

 以上が魔法学院の授業で習った、神羅儀の基本中の基本だ。


「攻撃系で前衛のオレと、ええと、よく分からねぇタクミ」

「ううっ、よく分からないは酷いです」

「酷いって云ったって、攻撃系でも守備系でもないじゃん」

「それはそうなのですけれど……」


 四大分類の中でも『生産系』の神羅儀保有者が、全体の殆どを占める。

 その人口は、国民全体の約八割が『生産系』であると云われており、階位も第十二級以下の神羅儀であることが殆どだ。


 例えば、大地の恵みを司る「麦の女神」の加護を得た神羅儀。

 その場合は、ふっくらとした美味しいパンを作ることができたりする。


 例えば、鉄鉱と鍛錬を司る「鍛冶の神」の加護を得た神羅儀。

 その場合は、丈夫で切れ味に優れた刀剣を鍛えることができたりする。


 こうした生産に根差した能力を『生産系』と呼んでおり、それぞれの家系によって信奉する神を選び、自分の親が就いている家業を継いでゆくのが一般的な平民だ。


「攻撃系がもうひとりと、守備系、補助系がいりゃ楽なんだけどな!」

「僕はその内の、どれになるなのでしょうか」


 生産系神羅儀が国民に人気の理由は、そのおかげで就職に事欠かないからだ。手に職と、それに伴う神羅儀さえ身につけておけば、まず食いっぱぐれる心配はない。

 逆にバルデスくんのような、強靭な皮膚と無双の剛力といった神羅儀は、武門の出など軍人にでもならない限り、そうそう役に立つものではないだろう。

 かといって僕のように、必ずしも望む神羅儀を身に着けられるとは限らない。

 信奉する神とは別の神羅儀を身に着けてしまい、没落する者があれば、栄華を極める者。奇妙な人生を歩む者など、様々な人生が存在しているのだ。


「僕も生産系神羅儀だったら、楽だったんですけれど」

「そりゃ、一般的な平民として……だろ?」

「それは……だって僕は、一般的な平民なのですから」


 バルデスくんは「そうかぁ?」と呟いたきり、ポリポリとこめかみを掻いた。


「普通じゃない生活の方が、楽しいじゃん」

「そんなのバルデスくんだけです……」


 僕はいつ死ぬんじゃないかって、怖くて仕方がないです。

 そもそも男と女を入れ替える神羅儀なんて、何の役に立つんだろう。


「どちらかと云えば僕は、補助系……なんでしょうか?」

「補助……うーん、オマエなんか補助できたっけ?」


 うう、また酷いことを云われました……

 バルデスくんの補助ができるように精いっぱい頑張ってるつもりなのに。


「もっとバルデスくんのお役に立てればいいのですが」

「はははっ! ま、いいじゃねぇか!」


 落ち込む僕を気にすることなく、バルデスくんはあっけらかんと笑う。

 そうして僕の背中をパンパン叩きながら云った。


「その代わり、こうしてオマエと馴れ初めたンだからさ!」

「はぁ、馴れ初め……ですか?」


 ええっと……あれ?

 それって、男女が親しくなったきっかけのことじゃなかったっけ?


「それ、なんだか告白された気分です、バルデスくん」


 まるで長年連れ添った夫婦の旦那さんみたいな台詞だ。

 そんなつもり、本人にはサラサラないのだろうけれど。


「……あれ、バルデスくん?」


 けれど――バルデスくんは、硬直した表情で固まってしまった。

 すっかり顔色を失って、真っ白な顔をしている。


「い、云い間違えで……う、うっかりだから……」


 そう呟いたきり、すっかり黙りこくってしまった。

 仕方ないので僕はただ、馬を並べて黙々と歩かせるのだった。

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