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疾風の盗賊団を追え - 01

 二週間ぶりの西部地区――アルディオーネ王国・首都は最西端へ。

 ここは『最後の出口』と呼ばれている、名のない街である。


 かつて砂金が見つかったことから黄金狂時代(ゴールドラッシュ)に湧いたこの街も、結局のところ鉱脈が見つからぬまま放棄されて、いつしか荒れ果ててしまったのだという。

 すっかり廃れてしまった今も、一獲千金を夢見る開拓者たちが西部から首都へ出入りする宿場街として利用され、その性質上のせいか荒くれ者たちが数多く集う。


「今回は歓楽街から少し外れて、このコテージを拠点とする」


 愛馬の六脚馬(スレイプニール)に飼葉桶の水を与えつつ、バルデスくんが云った。

 街外れは高台の森にある小さなコテージをわざわざ借りたのだそうだ。前回のように歓楽街の傍にある安宿を避けたのは、無用な争いを避けるためだと云うけれど――


「ああ、バルデスくんが大暴れしてしまったせいですね」

「……それを云うなって」


 図星を突かれたバルデスくんが、ジトッとした瞳で僕を睨んだ。

 何せ酒場で起こしたあの大乱闘は、首都郊外にあるアルディオーネ魔法学院にまで響き渡るほどだ。だから僕らが追う盗賊団は元より、荒くれ者たちにも面が割れてしまっていると思った方がいいだろう。


「ちょいと値は張るが……こればっかりは仕方ねぇな」


 ここはもう安全な場所なんてない西部地区の入り口だ。盗賊団は元より、どこで誰が見ているか分からないから、あれこれ注意を払うに越したことはない。


「だがこの辺りは、王国騎士団の息が掛かってる」

「ええっと、確かマルヴィン伯爵家でしたっけ?」


 バルデスくんは「そうだ」とばかりに頷いた。

 マルヴィン家と云えば、バルデスくんと同じ部門の家柄。西部地区の制圧で名を馳せ、バルデス家と並び称されるほど有名な貴族だ。

 その広大な所領内には、様々な貴族らの別荘が幾つも立ち並ぶような保養地だから、荒くれ者たちもそう易々とは足を踏み入れないのだという。


「それでも注意を払うに越したこたぁねぇけどな」


 六脚馬から馬具を下ろすと、コテージ周辺に魔術装置を取り付け始めた。これらは周囲の魔素を利用して、敵の侵入を感知する監視装置なのだそうだ。

 平民出の僕と違って名門貴族のバルデスくんは、こういった魔術装置を数多く知っているし、所有もしている。


「さて、と。拠点は確保したし……」

「まずは街へ出て、情報収集が定石ですが」


 僕は慌てて授業で取ったメモを取り出すと、内容を確認しながら答える。


「バァカ、オレたちの面は割れてるって云ってンだろ」

「あ……はい、すみません」


 バルデスくんに呆れ顔で叱られてしまった。


「必要な情報は、事前にオレが集めておいた」

「流石です、バルデスくん!」


 素直な感想だったんだけれど、バルデスくんは気に喰わなかったようだ。

 僕はあまり身体が強くないし、頭も良くない。だからせいぜい生真面目に頑張るしかない。けれどバルデスくんには、そんな僕の様子がまどろっこしく感じるのだろう。


「逆にタクミは、もうちっとしっかりしてくれよな」

「はい、頑張ります」


 こう見えて――と云ったら失礼だけれど――バルデスくんの成績は優秀だ。

 武門で有名なバルデス家の三男坊として、超一流の学校に通い家庭教師を付けていた。翻って僕はと云えば、ごく平凡な平民。文字や計算を教える学校に通っていた程度だ。


「オマエが落第しちまうと……独りで進級は勘弁だぜ?」


 バルデスくんの云う通り。名門であるアルディオーネ魔法学院の授業は非常に難しい。

 だから僕は落ちこぼれてしまう毎日だ。元々は僕が身に着けてしまった謎の神羅儀が原因とはいえ、こんな名門校へ通うことになるなんて、夢のような話だけれど。

 この一年間はバルデスくんとマルスさんが勉強を教えてくれるおかげで、何とか進級できた。それでも全教科落第点ギリギリセーフ、と云うのが正直なところだ。


「そうしたらバルデスくんは、独りで女子部屋ですね」

「止めて……ホント、止めて……」


 そう呟いてガックリと肩を落とすバルデスくんには、それ相応の理由がある。

 何故ならば、バルデスくんは正直云って女子に人気がない。人気がないどころかむしろ、嫌われてさえいる。女子の傍へ近寄ろうものなら、針のムシロである。

 かつて男の子だった時代、横暴で乱暴者だったせいである。因果応報である。


「女の身になって、乱暴な男を嫌がる理由がよく分かった」

「では女子と同じような行動を、とってみては如何ですか?」

「それがまた、できねーんだな、これが!」


 例えば――女子の四人部屋へ独り放り込まれたバルデスくんは、周囲をお嬢様たちに囲まれて、頑張って自分もお淑やかに振舞うのだろうか。

 女子学生たちが着るようなフリルいっぱいのリボンにドレス、お淑やかに紅茶のカップへ口をつけ、ケーキを頬張るバルデスくん――そんな想像するだけで笑いがこみあげて、もとい、不憫に思えて仕方がない。


「ではもう少し、女子に馴染む努力をしてみては如何かと」

「バッカ野郎、そんなこと……できっかよ」


 云われずとも、バルデスくんが女子の輪に加われるとは到底思えなかった。

 何しろ貴族出身者の多い学院内は、気品溢れるお嬢様ばかりが揃っている。当然のように貴族女子特有の、口撃による丁丁発止が繰り広げられているに違いない。

 マルスさんになる前のマリアさんだったら、美少女の余裕な微笑でスルリと躱した上、抜群の統率力を駆使して復讐三倍返ししそうな気がするけれど。


「うっかり手なんて出しちまったら、オレどうなっちゃうの?」


 それはもう、云わずもがな。バルデスくんの想像通り。

 ガサツで周囲に気を遣わず、物事をズケズケと本音で語る彼女のことだ。我慢しきれずに暴力を振るったら、退学にされるのが関の山だろう。


「女子の中に入りゃやってける気がしねぇし、かといって男子の中に入りゃ興味本位でジロジロ身体を見られっし……今まで女の身体をあんな目線で見てたかと思うと、オレは自分で自分を嫌悪するぜ」


 太い金色の眉をハの字に下げて、弱り切った表情で云った。

 武門出身の典型的な無頼漢であった、あのバルデスくんの台詞とは到底思えない。


「ではどちらの立場に立つつもりなんですか?」

「男なのか女なのか、そう簡単に決めらんねぇって」


 あれ……それはちょっと、意外な言葉だった。

 もっとハッキリと「オレは男だ!」って怒鳴るものだと思ってた。


「なんかさ……本当のオレはどっちなんだろうな」


 だから僕は、キョトンとした顔をしてしまっていたのかも知れない。

 バルデスくんは「なんだよ……」と口を濁したまま、そっぽを向いてしまった。

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